突如現れた謎の城。黒須の紋章で制御された城を守る魔法の数々に、達一行は、魔神、黒須の存在を感じていた。
「俺の名はビューティー男爵、クロスだ!」
「帰って良いか?」
そして、今、魔界始まって以来の壮絶な兄妹喧嘩の幕が切って落とされようとしていた。
第十話 魔神、
魔王代行と魔王代行代理。血を分け、時を同じくして生まれた2人は今、城の広場で対面していた。一方は陽気に軽やかに、一方は冷ややかに。見合う事数分。先に口を開いたのは、だった。
「、ちゃんと気付いたよな?」
「無論」
「そう。・・・じゃあ、少し試させて貰うよ」
赤くそして白い閃光が迸る。膨大な魔力がの体から溢れ出し、その波動は風となり達の髪を凪いだ。生まれて初めて感じる巨大な魔力に、山口は飲み込まれそうになるのを感じ、息を飲み気を高める事でそれを防いだ。
「圭介、藤代、危険だから下がれ」
が対峙したまま2人に告げる。
「別に3人掛かって来なよ。実力見たいしさ」
と、せせら笑っては言った。気の短い者なら逆上しかねない台詞だったが、は冷ややかに、藤代は楽しそうに、山口は嘗て無い状況に血が騒ぐのを感じながら、誰一人を侮らず、最強の魔神の名を冠する男に向き合った。
最強の魔神。そう呼ばれるは魔王、黒須京介の下で最も戦いに明け暮れた男だった。トラブルメイカーでは無い。魔王の座、そして最強の魔神の名を持つ以上、その首を狙う者は多数存在し、京介そしての所に野心溢れる魔族達が絶えず押しかけたのである。その全てを兄の分まで一掃したのがだった。推定レベルは2000強。魔王と比べても遜色無い力量の持ち主だった。
高速で突き出される藤代の槍。その攻撃を最小限で避けると、赤い魔弾を放った。床を蹴って、それを藤代は避ける。背後で魔弾が爆発し、瓦礫が崩れる音を聞きながら、
「すげぇー!さすが、!」
と、藤代は興奮した声で叫んだ。藤代がから距離を置いた隙に、今度はが仕掛ける。とは異なり青白い閃光を全身から迸るは、青い魔弾を無数に作ると、それを全弾、に叩き込んだ。回避不能の数、魔弾は攻撃対象目掛けて飛んで行ったが、が一瞬で作ったシールドを看破出来ずに終わった。間髪入れずに、城の天井すれすれまで飛んで翼を広げた山口の手から、大量の光が降り注ぐ。光の真下には居て、の攻撃でのシールドは殆ど破壊されていたが、それも再び作ったシールドでやり過ごした。
「一歩も動かせないか」
が呟き、が不敵に笑う。3人、それぞれが必殺技レベルの攻撃を繰り出したものの、ダメージを与えるどころかを動かす事すら出来なかった。
(本気で戦う訳にも行かないが、さてどうする・・・?)
元より本気でやり合う気は無い。そんな事をしたら魔界の大半は焦土と化す事はお互いわかっているし、本気で出来ない理由も肉親だからと言う理由以外にもお互い持っていた。
(が試すのは私か?藤代か?圭介か?それとも3人か?)
自分に向かって来た魔弾をと同じようにシールドで防ぎながら、は考え続けた。
(最低でものシールドが壊せる程、強くなれと言いたいのか?)
その考えが正しいのか試す為に、はからの攻撃を避けながら、右手に魔力を集めた。魔力は凝縮し、厚みと鋭さを増して行く。それを面白そうには見ると、今まで魔弾撃ちとシールドしか使っていなかったの魔力が一点に集中し出した。その隙を藤代の槍が突く。しかし―――。
「すげぇぇぇぇ!槍が折れた!!」
折れた槍を嬉しそうに振り回す。見て見てーと、この状況にも関わらず暢気に言う藤代に、山口は唖然とした顔になった。
「いや、折れて喜ぶなよ、お前!」
そうツッコむ山口に、
「山口ってみかみんに似てるよなー」
とは言った。
「どの辺?」
「ツッコミ気質な所が」
みかみんとは魔王軍軍団長の三上の事だろうか?キリングダストの。10時のおやつの。お魚柄パジャマの。そんな事を考えた山口の視界に黒い影が横切った。だ。そう山口が理解した時、右手に大きな剣を作ったと、両手に大きな盾を作ったがぶつかったのが見えた。
藤代の槍を折ったの盾は、ヒビが入るものの壊れるには至らなかった。
「まだ無理か」
自分に言い聞かせるようにが呟く。右手に魔力を凝縮させて作った剣は刃にヒビが入った瞬間、線状に全体にヒビが広がって、パラパラと崩れ落ちた。
「もうちょい強くなれよ」
人事のようにが呟く。数メートルの距離間。それ以上近寄らず遠ざからず、2人はお互いを見る。意思疎通を交わしているようにすら見えるその姿。先に動いたのはまたしてもだった。
「」
「何?」
「強くなれよ」
「・・・うん」
向けられた優しい眼差しに、も微笑むといつもと違った口調で答える。それを見たは翼を広げて羽ばたくと、先程までの戦闘でぽっかりと穴の開いた穴に足を掛ける。1度だけ振り返り、
「次はこのビューティー男爵、手加減はせんぞ。また会おう。はっはっはっはっは!!」
と、高笑いをして魔界の空に消えて行った。
「・・・久々に見直したのに」
廃墟と呼んでも差し障りが無い程、壊れ崩れ落ちた城の広場で、の呟きが良く響いた。