俺はその日、アウェイの試合に勝った。チームメイトの大半が街に繰り出す中、俺も誘われたのだが、今日はゆっくりしようと思って一足早くホテルに戻って来た。部屋に入り、ドアに鍵を掛け、一息吐く。
すると、
パーン!
パーン!
パパン!!
周囲から炸裂音がした。ビクリと体を震わせ、後を振り向くと・・・
先日あったばかりの元チームメイト達が揃いも揃って・・・いやがった。
「渋沢、誕生日おめでとー」
前回の被害者、近藤がひらひらと手を振る。近藤の後ろのソファーに三上と中西。その向かい側に笠井と藤代。窓際に間宮が居て。TVの前には・・・。
「山口と須釜?!」
「おー、久しぶり」
「久しぶりですね〜」
思いもよらぬ人物の姿に戸惑っていると、コンコンと背中に振動が伝わった。どうやら寄り掛かったドアを誰かがノックしたらしい。ドアスコープで確認すると、そこにも見知った顔。ドアを開ければ、大量の買い物袋を抱えて部屋に入って来た。
「久しぶりだな、渋沢」
「久しぶりたい!」
「お久しぶりです、渋沢先輩」
「あ、渋沢、帰って来たのか」
「功刀、高山、風祭、久しぶり。・・・辰巳、状況を説明してくれないか?」
頭を抱えて辰巳を見る俺の目の前を、平然とした顔でシャワー室から出て来た横山が通り過ぎた。
「・・・あ、渋沢。おかえり」
「・・・ただいま」
上半身裸のまま、髪に水滴を滴らせ、いつもの眠そうな顔で告げる横山に、俺はそれしか言えなかった。
一人掛けのソファーに座らされ、主役だからゆっくりしててと根岸に言われると、買い物袋等を皆が隣の部屋に運び込む。準備の間の俺の話相手に選ばれた根岸に事情説明を求めると、どうやら近藤が前回の職場訪問の一件で次回に意欲を燃やし、たまたま次が俺の誕生日だったけれど、その日は俺は遠征があって、どうするかと考えていたのだが、中西が「遠征先のホテルまで押しかけちゃえば良いじゃない」と言い、周りがそれに乗ってしまい、話を固めて行くうちに、が「あ、渋沢先輩が泊まるホテル。うちの傘下の系列のホテルですけど、スイート取ります?」と提案し、「当日の移動に関しても手配しておきますから、その辺は任せて下さい」と言い、本来ならば不可能だった俺の遠征先での誕生日会がこうして実現された・・・と根岸の説明に、「普通、そこまでやるか?」と俺は思わず唸ってしまった。
至極当然のように根岸は言う。「やるのが俺らじゃん」と。
「それが武蔵森スピリッツ!」
拳を突き上げて意気揚々と言う根岸に、準備で通り掛った山口が「さすが武蔵森、伊達に高校選手権3連覇してねぇな」と関心したように言い、俺は訂正しようにも何と訂正したら良いのか適切な言葉が見つからずに、曖昧な笑みを浮かべる事で誤魔化す事にした。
確かに武蔵森学園高等部サッカー部は、俺達が2年と3年の時と、卒業後の藤代達が3年の時に優勝したので三連覇していて、選手個々の実力も高い年とされ、嘗て無い程勝ちに貪欲なチームと評された俺達は、何かする度に「武蔵森スピリッツ全開」と叫んでいた気もするが(特に藤代と中西と根岸が)、その何かの大半はろくでもない事が多かった。あの数えるのも億劫な南京錠の数を数える時とか、ダンボール単位で貰うチョコの数を数える時とか、思い返して見てもまともな事をしていない気がする。
その後も部屋を訪れる者は後をを絶たなかった。その中に今日の対戦した、郭の姿もあった。俺と目が合うと、薄く笑う。挑戦者の目をした郭に不敵に笑い返せば、面白そうに郭もまた笑うのが見えた。
大阪に居る若菜と吉田も連れ立ってやって来た。京都の藤村とそれを迎えに駅まで行って居た水野も中に入って来る。吉田と藤村と言う関西弁を話す2人が加わった事で、部屋の中が一気に賑やかになった。
そんな中・・・。
「渋沢先輩、お久しぶりです」
スーツケースを引き摺って登場したのは、今回の最大の功労者、だった。後ろには真田と韓国の李潤慶が続く。中学時代からは人の輪の中心にいるようなタイプだったが、それは今も変わらないようで、特に仲が良かった郭と横山が駆け寄り、相変わらず互いを牽制し始め、それを見てが苦笑し、宥めて・・・といつものお決まりのパターンかと思いきや、そこに郭をからかうように従兄である李が郭に話しかけ、郭が面白く無さそうに顔を顰めて、それを見て真田が溜息を吐いているのが見えた。
中西が隣の扉から顔を出し、「始まるよー」と手を叩いて周りを促し始めた。根岸とに促され、俺も立ち上がる。部屋に入れば、温かく迎えられる。乾杯から始まった俺の誕生日会。
酒に弱い根岸は始まってすぐに酔っ払いと化したけれど、ふにゃっと表情を和らげて「なぁ、渋沢。後、何回こういうの出来るかわかんねぇけど出来る限りやろうぜ、こういう馬鹿騒ぎ」と言った。俺も笑って言った。
「やるのが俺らなんだろ?」
25歳の誕生日。あと何回こんな馬鹿騒ぎが出来るかわからないが、出来る限りやってやろう。あいつらが言う『武蔵森スピリッツ』とやらがある限り、は。
(言い訳)
1日遅れたけど、渋、誕生日おめでとー。