「・・・・・・なに、してるんですか?」
「・・・・・・なに、やってるんだろうなぁ」


トレセンが終わり、新たなナショナルチームのメンバー選抜の合宿2日目。例年に比べて初参加者の多い今回は、ポジション争いも加わっていつも以上に緊張感が漂っていると、常連の1人である藤代から聞いたばかりだったは、それを見て目を数回パチパチと瞬きをした後、恐る恐る話しかける事にした。話し掛けられた方も困惑気味に表情を変えた後、口を開く。


「自分でやっててわからないんですか?」
「いやー、最初は廊下に置いてあったダンボール見つけただけだったんだよ」
「結構大きいですね」
「だろ。たまたまスガと歩いてた時に見つけてさ。『これ、俺くらいなら入りそうだよなぁ』なんて言ったら、スガが『じゃあ、入ってみましょ〜』って言って、俺を持ち上げてさ。入れられた訳」
「・・・スガさん、力持ちですね」
「俺、この年になって持ち上げられるとは思わなかったよ」
「・・・貴重な体験だと思えば良いじゃないですか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ハァ」
「深く考えたら負けですよ」
「そうだな」


同意しながらも、山口の口から溜息が漏れる。元々は大型の棚を梱包していたダンボールだったらしく、入れられた山口は170センチは優にあるが肩まですっぽり隠れていた。


「そこにちょうどタイミング良く平馬が通り掛ってさ。今日のミーティングの片付け終わった後だったらしく、マジック持ってて。俺を見た後、無言でマジックのキャップ外してそれ書いて、スガと2人、どこかに行った」
「置いて行かれちゃいましたか」


そう言ってはダンボールに書かれた文字を改めて見た。マジックでデカデカと『拾って下さい』の文字。捨て犬や捨て猫を連想させる言葉だが、実際に入れられているのはU-15最高と呼ばれた選手だ。うっかり山口の頭に犬耳を付けた姿を想像したは、思わず自分自身の想像に寒気を覚えて少しだけ顔を顰めた。


「『拾われるまでそこに居て下さいね〜』って言われても、拾う奴なんて居ないだろ!って激しく思ったね」
「それでも大人しく入ってるケースケさんも凄いんですけど」
「いや、こうなったら、もう捨てられた動物の気持ちになってみようかと思った」


どうやら変な所で負けず嫌いな所が出たらしい。流石、U-15のトップ選手、とは納得し掛けたが、何とか留まる事が出来た。


「・・・思わないで下さいよ。それで少しはわかりました?」
「結構切ないってのはわかった。誰も通り掛らねぇし」
「この時間にこの辺に用がある人は殆どいないでしょうからね」


2人がいるのは第2ミーティングルーム前の廊下だ。隣が第1ミーティングルーム。逆隣は資料室とあまり人の立ち入らない場所だった。


「そう言えばは何でここに来たんだ?」
「忘れ物を取りに」
「へぇ、何か意外。忘れ物とか良くするのか?」
「あまりしませんね。ちなみに忘れたのは誠二ですよ」
「・・・その当の本人は今どこに?」
「食堂で渋沢先輩に捕まってます」
「あー、今日、カレーだったもんな」
「ええ。だから代わりに来たんですが・・・・・・ところでケースケさんはいつそこから出るんですか?」
「うーん?拾われるまで?」
「・・・わかりました。僕が拾いますから出ましょうね」
「マジで!拾ってくれるの?」
「ええ」
「やったー!あ、ご主人様って呼ぼうか?」
「そういう趣味は無いので、遠慮しますよ」

「何ですか?」
「大好き」
「・・・恥ずかしい事、真顔で言わないで下さいよ」








「平馬」
「あ、ケースケ。出て来たんだ」
「うん、拾われたから出て来た」
「へー。拾ってくれたご主人様って誰?」
!良いだろ!」
「・・・・・・」
「あれ?平馬、どこ行くの?」
「俺も拾われに行って来る」


「・・・なに、やってるの?」
に拾われるの待ってる」
「はぁ・・・」
「拾って、


割り当てられた部屋の前にダンボール。その中にすっぽりと入って待っていた横山平馬に引き止められたは、とりあえず3度目が起きる前にダンボールをどこかに隠して来ようと思ったと言う。


(ワンコ3匹も要らないんだけどなぁ)






1匹目、ふじしー。2匹目、ケースケ。3匹目、ヘーマ、で。