注意

この物語には『マリア様が見てる』(通称、マリ見て)の用語が所々に入っています。
ご注意下さい。


読んで見る?

























インフルエンザ?ノロウィルス?
いいえ、中西秀二です。











「ご機嫌よう、亮さん」


夕食時、突然頭上から降って来た言葉に、三上は口に含んだ烏龍茶を吹いた。うっかり器官の方に行ってしまい、ゴホゴホと咳を繰り返す。同情の眼差しを三上に注いだ後、無言で汚れたテーブルを笠井が拭いた。テーブルに備え付けてあった白い布巾が茶色く濁る。


「お前な・・・」


ようやく落ち着きを取り戻した三上が自分の横に立つ男を一睨みする。見た瞬間、恐怖で慄くであろう眼差し、うっかり通りすがりの2軍の1人が見てしまい、悲鳴を上げるものの、向けられた中西本人は至って平然としていた。むしろ薄っすら笑みまで浮かべる始末。


「お前じゃなくて、白薔薇と呼んで。紅薔薇」
「ロサ・ギガンティア?」
「そう。ロサ・ギガンティアに、ロサ・キネンシス」
「何だ、そりゃ」


三上の呆れた言葉に、すっと差し出されたのは1冊の本。三上の手にすっぽりと収まるサイズの表紙に描かれているのは、どう見ても可愛らしいとしか表現の出来ない少女達のイラスト。普段着ている制服に濃い灰色を落とせばこんな色になるのかもしれない。そんな色合いのセーラー服を着た少女達の物語に中西ははまったらしい。


ぱらっと表紙を捲る。タイトルに次いで現れたのは登場人物の紹介。そこを見ただけで三上の頭の中の容量は一杯になり、無情にも本は閉じられた。


「俺が白薔薇で、三上が紅薔薇って言うのは確定なんだけど、黄薔薇は誰だと思う?」


思うと聞かれても三上は答えようが無かった。ロサ・フェティダって何だよと言うツッコミで彼の中は一杯一杯である。


「やっぱりさ、見た目に反して中身は親父で抱き付き魔ってなったら、俺しかいないと思うんだよね。黄薔薇の得手不得手の無いクールでマイペースなキャラって言うのも俺に当てはまるけど、渋沢でも何とか出来ると思うんだよね」


どうやら今回の中西のお遊びに自分は確定らしい。諦めにも似た溜息を1つ漏らした三上は「ああ、そうだな、渋沢だな」と相槌を打った。俺を巻き込むなと視線を少し離れた席に座る本人から送られるが、お前も巻き添えだと視線に篭めて送り返す。


「そうなると、今度は蕾と蕾の妹だね」
「そうか・・・」


ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンとか、ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン プティ・スールと言う長ったらしい呼称を、よどみなく口にする中西は、その情熱をもっと他所に向けるべきだと、三上は常日頃から思っている事を今日も口にしないまま黙り込む。


「三上の妹は・・・うーん、笠井かな。藤代は渋沢とセットだし」


スールって何だと言うツッコミが浮かんだが、突っ込まずに三上は新しくグラスに注いだ烏龍茶を口にした。基本的にツッコミ気質な三上の頭の中には、先程のツッコミの他、セットって何とか色んな物が思い浮かんではいるが、口にはしない。中西と会話する上で必要なのは、簡潔さだ。余計な物が付くと、嬉々としていじりにやって来る。口に出さずに留めると言うのもかなりのストレス物だが、中西の玩具になるくらいならマシと言う考えが、いつだって三上のブレーキになっていた。


「そうなると、俺の妹で蕾は・・・うーん、かな。やっぱり」


何がやっぱりなのだろう。その呟きも抑えて三上は食器を載せたトレイを持って立ち上がる。


「お部屋に戻るなら、一緒に行きませんこと。亮さん」
「・・・・・・・・お前のスールと行け」


ぴっと指差した先に座る、ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンと言うポジションに、この度、めでたくなった後輩を指せば、中西は「そうね」と薄笑いを浮かべると、立ち去って行った。別れ際に聞えた、ご機嫌ようの言葉が酷く耳障りだった。


中西が立ち去った後、三上と同じようにトレイを持って笠井も立ち上がる。


「行くか?ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン」
「行きます?ロサ・キネンシス」


互いに付けられた呼称を呼び合った後、出たのは互いに溜息だった。覚える気は無かったが、三上と笠井の優秀な脳が聞き覚えの無い長ったらしい呼称インプットしてしまったらしい。頭の中で削除命令を出しながら、三上は呟いた。


「ほんっっっとう、影響されやすい奴だよな」
「そしてほんとーーーーに、周囲に撒き散らす人ですね」


中西秀二。自分がはまった物は問答無用で周囲に撒き散らす男。




そんな彼はインフルエンザよりも、ノロウィルスよりも性質が悪いと言われている。







別名、中西さまが見てる