「俺、1年で1番、2月14日が嫌いなんだよ」


仏頂面で言った三上の言葉には「でしょうね」と即座に返した。




同世代の中では高めの身長に加えて、整った顔立ちに目元が下がった垂れた目は女心を掴むには十二分の魅力を備えていた。例え不機嫌な表情を浮かべた所でセクシーだと言われる三上は当然の如くモテる。


しかも通っているのは文武両道で名高い武蔵森学園。更に全国制覇を達成した名門サッカー部所属。ただの部員ではなく、1軍、しかもレギュラーで司令塔。ついでに付け加えれば学業の方も優秀で、理数系では一桁の順位を維持している。この肩書きを聞いただけでもお近づきになりたい、お友達になりたい、お付き合いしたいと思う女性は居るのに、顔も良いとくれば周囲が放っておく筈も無く、イベント行事では常に人に声を掛けられていた。


三上とてそう付き合いの悪い男ではない。毎度、部屋に突撃し騒ぐ後輩(三上曰く、学習しない駄犬)に対しては拳骨を落としたり罵倒したりしているが(三上曰く、躾)、彼の不器用な性格を理解する友人達にも恵まれているし、日直や学校行事でしか話さないクラスメイトに対しても極々普通に(当たり障り無く)接していた。肩書きや外見は派手だが彼も極々普通な高校生なのである。


そんな三上が1番苦手としているのが2月14日、バレンタインディである。製菓会社の陰謀で始まったこのイベントに合わせて意中の人に告白する人も多いだろう。バレンタインディで恋人が出来ましたなんて話も良く聞くが、世の中そう上手く行く話ばかりではなく、華やかなイベントの裏側で意中の人に振られて涙する人も多い。普通の日に振られるよりも、イベント当日に振られる方がやはり精神的にきついのだろう。だが振られた側ほどでは無いが、振った方も心が痛まない訳が無く、不器用な三上は不必要なほどに罪悪感を感じるのだった。


ただでさえ甘い物は苦手なのに関わらず、それを受け取らねばならず、ついでに結構な人数に告白され、時に振った事に対して詰られる。三上としては踏んだり蹴ったりな1日であり、理不尽な1日であるが、バレンタインと言う日が嫌いになっても、不器用な性格と優しさを持つ彼がチョコや告白から逃げる事が出来る筈も無く、毎年懲りずに精神力をギリギリまで消耗していた。




その事情を良く知るは三上の言葉に即答で返した。の目には「毎年大変ですからね」と書かれており、それを読み取った三上は後輩の髪を優しく撫でた。「俺は大丈夫だから、心配すんな」と言う意味合いの行為だったが、その意味をも紛う方無く読み取るものの、毎年悲惨な目に遭っている三上を目撃しているので、自然との目は気遣うものに変わり、それに気付いた三上は再びの髪を撫でて安心させるのだった。




ドンドン、と少し強めにドアがノックされる。入った時に鍵を掛けていたので2人は慌てる事は無かったが、見たくも無い現実を直視する羽目になった。


「チッ、来やがったか」


小声で三上が忌々しそうに口にする。厄災から守るように傍に居たを腕の中に匿うように抱き、も大人しくすっぽりと三上の腕の中に収まった。「どうするか?」と問う眼差しを向けるものの、体勢的にどうしても上目遣いとなり、不安げに映ったのだろう。あれだけの意思疎通を先程見せたのに関わらず、「心配するな。俺が守るから」と少々の問い掛けとずれた言葉と共に額に軽い口付けが贈られた。恥ずかしさに顔が強張ると愛おしそうにその表情を見つめる三上。2人の雰囲気が徐々にピンク色に変わるが、それを邪魔するように再びドアは強く叩かれ、ドアハンドルが何度も回され、その度にガチャガチャとハンドルと錠がぶつかる音がした。


「みかちゃーん。ここに居るのはわかっているから出ておいでー」


三上にもにも聞き馴染みのある声だったが、2人は答えずにドアの向こうを窺っていた。鍵を掛けている時点で向こうにはとっくにばれているだろう。ここは3階。ベランダも無く、窓からの脱出は不可能であり、完全に追い詰められた形になった2人は様子を窺う以外の術を失っていた。


「ほらほら、みかちゃん。貴方の中西秀二がお待ちですよー。貴方の!秀二が!!」
「俺は待ってねぇ!!」


ドアの向こうに立つ少年に負けじと三上も大声を張り上げた。耳元でそれを聞く羽目になったは顔を顰めて指で耳栓をする。身を竦めたに小声で謝ると、三上は心底面倒臭そうな顔で頭を乱雑に掻きながらドアの前に立った。


「ねぇ、みかちゃん。ここ開けてよ。俺、寂しくて死んじゃ「死ね!」」


言い切らない内に三上は中西の言葉を暴言で遮った。しばらくしてドアの向こうからくつくつと楽しそうな笑い声が聞こえ、三上の表情は一層きついものに変わり、は呆れ顔で後ろのベットに背中から倒れ込んだ。


「さあ、時は満ちた!今こそ、俺とポッキーゲームをするんだ!みかちゃん!!」
「全力で断る!そもそもポッキーの日(11月11日)はとっくに終わってるだろうが!!」
「ノンノン。愛があれば無問題!」
「お前に対する愛なんて1ミリもねぇよ!」
「1マイクロならあるかもしれないじゃない?」
「1ナノも1ピコもねぇ!!」

からかう言葉の数々に三上の機嫌だけが落ちて行く。その機嫌を直す羽目になりそうなはうんざりした表情でそのやり取りを眺めていた。







「中西のせいで10月30日と11月11日まで嫌いになりそうだ」









書きたかった物

☆着音ボイス高校生編
☆外見やスペックは凄いけど、中身は極々普通でそれで居て不器用な三上さん
☆男装バレ主人公(三上と笠井は知っていて、中西は気付いているけど知らん振り)
☆ハロウィンに悪戯宣言を出された三上が、逃げ回っている間にポッキーの日が来たのでポッキーゲームで迫る中西

あれ・・・気が付いたら三上さんと主人公付き合ってる・・・だ・・・と・・・

本来ならば恋人も居て幸せな筈の三上さんですが、恋人が男装&男子部に通学中なので、付き合っている事はおろか存在すら明らかに出来ないので、表向きは三上さんも恋人のくん(さん)もフリーです。誰とも付き合えない(付き合う気の無い)三上さんの下には告白が殺到する訳で日々苦労しています(特にバレンタインディ)。