3月中旬。桜の開花が始まる前に中学校の卒業式の日はやって来た。壇上でが答辞を読む。もう2度とと同じ学校の制服に袖を通す事が無い事を改めて実感し、寂しさを覚えた。


最後だからと元彼女の姿を探したけれど、早々に帰ってしまったようで、どこにも見当たらなかった。東京の有名な全寮制のお嬢様学校に入学するらしい。そう人伝えで聞いた。多分、余程運が良くない限りもう会う事は無い気がした。




さぁーと冷たい風が通り過ぎて行く。失った物、得た物。どちらも大きかった。何が正しくて何が間違っているのか俺は未だに理解出来ていない。


だけど、俺は―――。







ホームに電車が到着して、ぞろぞろと乗客が降りるのを見計らって電車に乗り込んだ。3両目の前のドアから乗り、連結部の傍の手すりに掴まる。周りには俺と同じ赤に青のラインの入ったウィンドブレーカー姿のチームメイト達。いつものように他愛も無い話を交わしていると、乗車駅から3つ目の駅を伝えるアナウンスはあっと言う間にやって来た。


「それじゃあ、お疲れ」


口々にお疲れと言い合うと、俺が向かったのはホームでは無く隣の車輌。人と人の間をすり抜けるのもこの数ヶ月で一気に上達した。2両目の前のドア前に辿り着いた頃、タイミング良く電車はその駅に着いた。


「黄葉学園前、黄葉学園前」


アナウンスが鳴り響き、ドアが開いて電車の乗客の乗り降りが始まる。水色に少しだけ黄緑が混じったような色、アクアと呼ばれる色合いに濃い青のラインが2本入った制服、黄葉学園の制服に身を包んだが乗り込んで来た。俺を見つけて表情を柔らかく崩す。


「お疲れ様」
「そっちもお疲れ」


そう言い合うのが俺達の日常になっていた。




考えて見れば中学入学の時から徐々に距離が離れて行ったは、1度も俺のサッカーの練習を見に来た事が無かった。だからまさか思いもしなかったのだろう。俺の所属するチームの練習場もの通う学校も同じ路線上、それも3駅しか離れていないなんて。人生どこで繋がっているかわからない、そんなCMを前に見た事があったけれど、まさにその通りだとこの事を知った時につくづくそう思った。しかも、各駅だろうと快速だろうと特急だろうと、確実に練習場との通う高校の前には停まるようになっているのだから、この繋がりは強い。卒業して、1度は無くしかけたとの繋がりがまた出来た。その幸運に感謝だ。


「お腹空いた〜」
「俺も空いた」


普通の家庭ならとっくに夕食が始まっている時間帯。俺はサッカーの練習、は特待生として入学したので、特進コースと言うクラスに入ったらしく1日7時間とか8時間の時間割なので、帰りは大体一緒の電車になっていた。たまに電車に俺が居なかったり、が乗って来なかったりするけど、この時には連絡して、駅から家まで一緒に帰るようにしている。中学生の時に比べると格段に遅い帰宅時間。練習が無い日は俺が駅まで迎えに行くようになった。




と付き合うようになってから、を想う時間が増えた。学校行事とかでクラスの女子と話す度に、考えるのはいつだっての事だ。一緒の学校だったらと思う事は何度もあるけれど、同じ学校だったら付き合って無かった可能性だってある。が俺と別の学校に行く選択をした事がそもそもの事の発端だったのだから、こうして一緒に居られる時間は同じ学校同士のカップルに比べると短いけれど、一緒に居られて幸せだと思う。だからこれで良い。そんな風に今なら思える。


「帰りにコンビニ寄って行くか?」
「行く。新作のデザートチェックしなきゃ」
「お前、コンビニデザート好きだよな」
「圭介だって好きでしょ。この間、私のティラミス食べ・・・あ、あの時のティラミスの分、何か埋め合わせしてよね」
「しょうがねぇなぁ」


の空いた手を取って繋ぐ。指を絡めて所謂カップル繋ぎと言う言う奴で。絡ませると、中指と人指し指の間に冷たい感触が伝わった。俺が家庭教師の礼で贈った指輪だった。




何が正しいかなんてわからない。だけど、俺は今間違いなく幸せだ。それだけはわかっている。




泣いて、笑って、喧嘩して、仲直りして、同じ事の繰り返しかもしれない。


だけど、俺は、


君と一緒に歩いて行きたい。