そうだ、今日は火曜日だった。


黄葉学園には、特進コースがある。1日最大8時間授業。部活禁止、アルバイト禁止。特待生待遇の恩恵を受けている代わりに、一定レベル以下まで成績が落ちると、普通コースに戻される他、待遇も撤廃される場所だ。クラスメイト全員がライバルだが、高校1年にして競争社会の厳しさを学ぶ事になった者同士、同じ辛さを共感し合っているので、最初の1ヶ月はギスギスとした雰囲気の教室も数ヶ月経てば普通コースと同じ空気を漂わせていた。最もそれは休憩時間の間だけで、授業に入れば中学時代に想像しなかった張り詰めた空気があった。




学校を出ると少しだけ肩が軽くなった気がする。勉強する事は嫌いでは無いし、教師陣も教え方が非常に上手いので勉強面に関しては充実しているけれど、まるで高校が大学に行くための通過点に過ぎないと言う空気が常に漂う空間に居ると、それを意識する度に少しだけ気分が沈むのだ。それでも入学したての頃に比べると徐々に慣れて来ているのだろう、気が滅入る回数はかなり減った。




校門を抜けて駅までの道。携帯を取り出し、画面を見るとメールアイコンが表示されていた。静岡はおろか東海でも有数の進学校。県外から通う生徒も多いので、万が一の事に備えて携帯の所持の他、中庭と携帯ブースに限って使用が許可されていた。授業中、サイレントモードにし忘れて携帯を鳴らした生徒が何人も注意されているのを目の当たりにしたお陰で、モード切替の習慣はあっと言う間に身についた。


『何時到着の電車に乗る予定?』


圭介からだった。短いメール。だけど酷く彼らしい。腕時計を見ればもうじき快速電車がやって来る。足早に駅まで歩けば何とか間に合ったので、乗車して一息吐くと乗った快速電車の到着時刻をメールで送った。人で混雑した電車の2両目。メールが来ている時点で、その前に今日が火曜日と言う時点でわかっていたけれど―――。


電車の中に圭介が居ない事が酷く寂しく感じる。




ガタンゴトンと音を立て、電車は私の住む街へと進む。片道30分の距離。決して長いとは言えない時間だ。けれど退屈と感じるには充分の長さで、何度も腕時計を見るけれど一向に時間は進まず、闇色に染まった窓ガラスの移り変わる風景をぼんやりと眺めた。自然と左手の人差し指が、右手の中指にはめられた指輪をなぞっていた。


いつもは楽しい帰り道。だけど、今日は貴方が居ないから私は時間を持て余す。




窓ガラスの向こう側が見慣れた風景に変わって、少しずつ私の気持ちは逸って行くのを感じる。アナウンスで次の停車駅が告げられる。30分待った到着駅。アナウンスから2分後、電車は停車し乗客を降ろした。慌しく階段を下りて行く乗客の波。昔は何故こんなに急ぐのかと思ったけれど、今ならわかる気もした。


波の1つに私の姿。改札を抜けた先に愛しい姿。


「ただいま」
「おかえり」


急いで駅を歩く無数の足には、きっと色んな理由があるに違いない。