いつもの起床時間に起きたって平気なのに、2時間も早い時間に目が覚めた。昨日はなかなか寝付けなかった。やっぱり少しだけ緊張してるのだろう。藍色のカーテンを引けば、まだ薄明るい空が広がっていた。今日は良く晴れそうだ。




顔を洗い歯を磨く。髪を念入りに梳かして、ヘアワックスで毛先を遊ばせて見た。ニキビにも効くと言うファンデーションを頬に落とし、色付きのリップクリームを塗る。昨日、数時間掛けて選んだ服を着て鏡の前に立って見る。劇的・・・・・・とは言えないけれど、それでも以前に比べれば少しは可愛くなっていると・・・・・・思う。自信は無いけれど。




後は出掛けるだけだけど、まだ1時間ある。早く過ぎて欲しいのに、時間はなかなか進まない。コーヒーカップに口を付けながら、コチコチと規則的に動く時計の針を何度も見る。




ようやく30分が過ぎた頃、待ち切れずにリビングの窓から外を見れば、待ち合わせの時間よりも30分早い時間なのにも関わらず、その姿はあった。ソファーに立て掛けて置いた鞄を持って、キッチンで洗物をしている母さんに「行って来ます」と声を掛けて玄関を出た。




「いってらっしゃい」と言う母の声は少しだけ苦笑交じりだった。




「あれ?もう10時か?」


外に出て来た私を見て、圭介は自分の腕時計を確認した。狂って居ない限り、時計はまだ9時30分を少しだけ過ぎた頃だろう。「少し早いけど合流したし出かけるか」と言うと圭介は歩き始めた。その横を私が歩き始めると、少しずつ歩く速度が緩やかになって行った。最初は圭介と同じ歩調だったのに、気が付けば私のいつもの歩調に変わっていた。そう言う小さな気遣いがとても嬉しい。


「じゃあ、まずは映画見てそれから昼食食べに行くか」
「うん、楽しみ」


今日は春休みになって、初めて圭介のサッカーの練習が無い日。「デートするか?」と言った圭介の言葉に頷いて、いざデート!となったものの、インドアな私に対してアウトドアな圭介とでは趣味も大きく異なり、初めてのデート先に色々と悩んでいる私達に救いの手を差し伸べたのは、たまたまテレビに流れた映画の宣伝。冒険ファンタジー物。私も圭介も比較的好きなジャンルだ。




考えてみれば隣人同士ではあるけれど、趣味もバラバラで同世代という事を除けば共通点は結構少ない。もう少しサッカーや圭介の好きな物について詳しくなるべきなんだろうと思って、こっそり色々と勉強中だ。この間、戦術についてあれこれ調べて見たけれど、かなり興味深い。戦術を知った後、サッカーの試合をテレビで見たら今までとは違った角度から試合が見れたので面白かった。この調子で色々と覚えて行きたいと思う。圭介が夢中になっている物の楽しさを私も知りたいと思うから。




すっと右手を取られた。きゅっと掴まれて一緒に歩く。手から伝わる体温は温かくて心地良いけれど、鼓動が少し早くなって顔が少し暑い。




初めてのデート、初めて行く2人で見る映画、それに初めて手を繋いで出掛ける事とか。初めてだらけな事ばかりで、不慣れで時々焦ってしまう事もあるし、高校が別れる事に少しだけ不安もあるけれど、私の事を好きで居て欲しいから、圭介の事をもっと良く知りたいから、出来る限り好きで居て貰える努力と相手の事を良く知る努力をして行きたい。


今はそんな風に思う。だから―――。




「その服、可愛いじゃん。見た記憶無いけど買った?」
「うん、この間、買ったの」
「へぇー。良く似合ってる」
「ありがとう」


こんな風に褒められると、とても嬉しい。




圭介は自慢の彼氏だから、私も自慢に思って貰える様なそんな彼女になりたい。




そう思う今の自分が大好きだ。