「・・・・・・何、見てるんだよ」
「あ、一馬。おかえり〜」
キングサイズのベットに寝そべって、ヒラヒラと手を振るのは俺の恋人の。その奥では嬌声を上げて体を震わせる女の姿の映った―――テレビがあった。
とは中学からの付き合いだ。中学高校時代はデートで色んな場所に行ったけれど、俺がプロになってからはアパートでのんびり過ごす事が増えた。どうも俺は自分を隠すのがあまり上手くないらしい。結人は得意のヘアメイクやファッションを変える事で周囲に難なく溶け込めるし、英士は存在感を消すのが上手い・・・と言うのだろうか。帽子とサングラスだけでその辺を歩いてもばれないと言っていた。オフの時に殆どファンに見つからないと言う2人に対し、俺なんかしょっちゅう見つかっては対応に四苦八苦している状態だ。俺1人でもこんな感じなのに、彼女を連れて歩いているのを見つかった日には何を言われるかわかったものじゃない。まして紙面に書かれた日には・・・・・・想像しただけで身震いしてしまった。
見つかった時のリスクを考えると、どうしても外出する事を躊躇ってしまい、気が付けば俺の休日はアパートで彼女とのんびり過ごすのが定番となってしまった。「いい加減、上手くなれよ」と言う結人にその事を話せば呆れられ、チームの先輩に教えられたと言う店に案内された。ビルが立ち並ぶ一角にある建物。5階以上は優にあり、完全会員制。オーナーがマスコミ嫌いと言う事で、マスコミ関係は完全にシャットアウトされており、中は娯楽施設が併設されたスポーツバーに、上は宿泊施設になっている。しかも、5階と6階は特殊な作りの―――俗に言うラブホテルと同じような部屋になっている。結人に「まさかお前らがこんなに通うなんて思わなかった」と言われたけれど、俺だってその時にはまったく思ってなかったし、広島に住んでいる英士が頻繁に通うなんて思いもしなかった。人目を気にしないで遊べるこの場所はのお気に入りの場所で、宿泊も出来るお陰でオフの時には泊り掛けで柏から遊びに来るようになっていた。
「テレビ付けたらこのチャンネルだったから、試しに見てみた」
「・・・・・・面白いか、それ?」
「割と。女優さんが『きゃー、止めて』って言ってる癖に、男優さんにお尻突き出してるの。もう見た瞬間に笑ったね」
「・・・・・・中途半端な演技は逆に笑いを誘うだけだからな」
ベットに腰掛けてタオルで髪を拭こうとすると、すっと横からタオルを取られ、優しい手付きで髪を拭かれた。時折、頭皮マッサージも加わって結構気持ち良い。
「あー、気持ち良い」
ついそう口にしてしまったのだが、タイミングが少々悪かった。
「あっ、気持ち良い」
曰く『笑える女優さん』がテレビの向こうで俺と同じような台詞を吐いた。向こうは男優にあれこれされてそう言ったんだろうけれど、俺は違う。断じて違う。
そのタイミングの良さ(俺にとっての悪さ)がの笑いのツボをついたらしく、アハハと笑う声が後ろからした。
「一馬、タイミング良過ぎ」
「俺にとっては悪過ぎだ」
ハァっと溜息を吐いてテレビのリモコンを探すが、見つからない。後ろかと思って首を回せば、「前を見てよ」と言ったにくぃっと首を元の位置に戻された。諦めて大人しく髪を拭かれる事にする。
髪を拭くと拭かれる俺。BGMはアダルトチャンネルの現在の時間帯放送の女優の喘ぎ声。シュールだ。とてつもなくシュールな光景だ。
「はい、おしまい」
髪を拭き終わり、触ってみればほんの僅かに湿り気がある程度だった。これならしばらく放っておけば自然乾燥するだろう。「サンキュ」と言えば、嬉しそうにはにっこりと笑い、キスしてきた。こんなテレビをずっと付けていたせいか、いつもよりは積極的だった。反応もいつもより良い。
気が付けばテレビは違う画面に切り替わっていた。シャワールームの壁に手をついた女が背中に張り付いた男に良いようにされていた。シャワーのノズルが開いたままなのだろう。シャワーから降り注ぐお湯が2人の体を塗らして、それが酷く扇情的に見えた。
「、お前、まだ風呂入ってないよな?」
「入ってないよ。・・・ん。コレやるの?」
ニヤッと好戦的に笑うにキスを1つ落として、そのまま手首を掴んで引っ張れば、は嫌がる事無く、むしろ乗り気な表情で着いて来た。空いた手でベットの上にあったリモコンを掴み、電源をオフにするとそのまま2人、シャワールームに移動した。
折角拭いて貰った髪はまた濡れて、に拭いて貰う事になりそうだ。