「明日、俺の誕生日なんだよね」
「ちゃんと覚えてるけど」
どうしたの、いきなり?とソファーに座る彼女は首を傾げて言った。
付き合い始めて気が付けば3年が過ぎた。告白はされるものの、好きだと思える相手としか付き合わない信条の彼女にとって、俺は初めての彼氏だった。
恥ずかしいからと、ダブルデートなんてしたのも、今となっては良い思い出だ。クラスメイトからの視線が怖いからと、隣街まで移動してデートした事もあった。
初めて手を繋いだ時の事も、キスをした時の事も覚えている。照れ屋な彼女はいつだってその後のリアクションが面白くて、覚えるつもりが無くても頭の中に勝手にインプットされた。
3年間、色んな所へ行った。映画館、水族館、美術館、図書館、漫画喫茶、カラオケ、ボーリング、ゲームセンター、書店、ショッピングモール。挙げればキリが無いくらい。
「俺さ、今度、海外行ってみたいんだよね」
「遠征で行くのは駄目なの?」
「駄目だね」
サッカーで代表に選ばれて、国内外色んな所に行った。フランス、イギリス、スペインとEUだけでも結構色んな所に行っている。
「観光地に行ってみたいんだ」
「ハワイとかグアムとか?」
「そうだね。暖かい所も良いね」
南国の島国でも良いけど、ドバイでも良い。
「それと光宏の誕生日と何か関係あるの?」
日生と苗字で呼ぶ彼女に、名前で呼ばせるのには時間が掛かった。どっちでも良いじゃないと彼女は言うけれど、名前で呼んで貰う方が全然良い。
「実はさ」
17歳、高校生だった俺達の生活もこの3年で変わった。俺は念願のサッカー選手になれたし、彼女も自分の夢の為に大学に進んだ。19歳。明日で20歳。来月の成人式に一緒に2人で高校時代を過ごしたあの街に行こうと思う。だけどそれよりも先に―――。
「と結婚したいかと思って」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、用意していた指輪を本棚の引き出しから取り出す。赤のビロードの箱。箱を開ければ、繊細なデザインの施されたダイヤモンドの指輪が照明に照らされてキラリと光った。
「俺と結婚してくれる?」
目を丸くする彼女。本当は彼女の大学卒業を待とうかと思ったけれど、幸せそうに惚気る相変わらず赤のメッシュの親友がとても羨ましく思えた。
今までの経験から考えると、彼女はあれこれと色々言った最後にきっと言うだろう。私で良いの、と。俺の未来予想図の中では5年後も10年後も、と一緒にいる姿しか思いつかない。つまりはと一緒になる以外、考えられないのだ。
彼女がそう言ったら、言おう。
「以外、考えられないよ」
承諾して貰ったら、指輪を嵌めて、それから準備していた婚姻届とパンフレットを入れた鞄を持って来よう。提出は早い方が良い。明日は俺は休みで、は午後から授業だから、一緒に午前中に提出しよう。パンフレットはハワイ、グアム、バリと新婚旅行定番コースを中心に揃えたけれど、が行きたい所があればそこのパンフレットも揃えよう。それからご両親への挨拶もしなきゃ行けないし、と未来の義妹にも報告しないと。
やる事は一杯あるけれど、まずは―――。
泣き出してしまった彼女を落ち着かせる事から始めてみようか。
君以外、考えられない。
(言い訳)
赤メッシュの彼はさずかり婚して、もうじき1児のパパ設定。