15年と言う年月は、たかだか22年しか生きていない私達にとっては人生の大半を占める。その間、ずっと両思いだったのにも関わらず、お互いそれに気付かずに擦れ違ってばかりの私達の時間はようやく動き出した。
ただし、それはとても急速で。
例えて言うならば、いつもは穏やかな川面が大雨台風により増水し、氾濫していると言っても良いのかもしれない。
さて、私と先程まで幼馴染、十数分前から恋人になった山口圭介は現在22歳である。成人し、酒もたばこも合法な年齢である。
「」
「うん」
15年と言う長い月日は、私達の関係を急激に押し上げようとしていた。抱き締める腕を緩め、圭介は私の頬に両手を添えると自分の方に引き寄せた。圭介の顔が徐々に近付き、私は反射的に瞼を閉じた。
唇に熱が伝わる。何度も角度を変えてキスをする圭介。
それに対し私は・・・・・残念な事に何も出来なかった。白状するのもアレだが、実は初めてだったのである。
(結構恥ずかしい・・・かも)
そう何度目かのキスでそう思った。
ヤバイと思ったのは、それからすぐの事である。飽きずにキスをする圭介にいっそ感心してやろうかと思っていたら、
「ん!」
生温かい物が浅い呼吸を繰り返す唇の隙間から入って来た。
「んんー!!」
抗議の声を上げようにももう遅い。私の声はもはや声にならず、圭介の舌は私を支配しようとばかりに動く。体の奥から湧き上がる未知の感覚。それが何なのか知らない私は逃げ腰になるが、それを圭介は許してくれなかった。引き気味になった腰を引き寄せられ、じわりじわりと圭介は私を侵食して行く。逃げる事は叶わない。かと言って他の手段が思い浮かばない。それどころか徐々に圭介から与えられる未知の感覚に、思考ごと持って行かれそうだった。
(知らない。こんなの知らない)
体の内側をかき回すようなこの感覚も。長いキスも。這う舌の感触も。
呼吸困難になりかねない長さ、苦しさを感じた私は圭介の胸を手で何度も叩くと、ようやく解放される事になった。ふらりと力無く倒れる私の体。足にも腰にも完全に力が入らず、ぺたんと床に座り込むように崩れるが、その前に圭介が素早く腰と肩を捕まえて支えてくれた。
「ふぁっ」
「感じ易いな、お前」
上から見下ろす圭介を上目遣いで睨めば、逆効果と言って頬にキスを1つされた。
「悪かったわね」
「いや、良いんじゃない?」
そっちの方が俺も嬉しいし。そんな事をしゃあしゃあと言う圭介を理解しかねた私は、とりあえずこの状況から脱却しようとお茶飲まない?と誘った。途端に圭介の表情が曇る。何、そのお前空気読めよって言いたげな視線は。
大きく溜息を吐き出すと、気を取り戻したのか圭介は再び顔に笑みを浮かべる。その笑みは甘い。大抵こういう時の圭介は何かお願いして来る時が多い。嘗て無い程、嫌な予感しかしなかった。
冷や汗を浮かべる私に対して、圭介は
「、しよっか?」
と、言って来た。
何を?と聞けない雰囲気はあった。だが、そのまま素直に頷くのは危険な雰囲気もあった。とっても嫌な二択である。どっちがマシかと言う消去法を用いた結果、私は何を?と尋ねると、深い深い溜息が返って来た。
あー、とか、うー、と唸る声がする。何て言って良いのか圭介も悩んでいるようだ。しばらくして唸るのを止めた圭介は、私の腰を引き寄せると、
「こういう事」
と、わかりやすく体で教えてくれたのであった。
(首舐められた!ってか、胸に手がー手がー!!)
「イヤ」
「そりゃないだろ」
「やだ」
「子供かお前は」
「子供だもん」
「・・・おい」
キスだって初めてだったのに、と渋々こちらの状況を口にすれば、流石にそれは圭介も想定していなかったのだろう。目を大きく見開いて、私を見ていた。
「マジで?」
「・・・まぁ」
「本当に?」
「・・・そうだよ」
「冗談じゃなく?」
「しつこいよ、圭介」
すっかりイジケモードに入った私は、圭介に捕まって無ければ今頃部屋の隅でのの字を書きかねない勢いだ。拗ねてますという表情を作り圭介から顔を逸らせば、滅多な事ではこうならない私の機嫌の悪さを察したのだろう。ごめんと一言謝る圭介の言葉と、強く抱き締める圭介の腕の強さを感じた。
「ビックリしたけど、なんつーか、嬉しい」
そういって密着する圭介の体温が酷く熱く感じられた。熱でもあるのかと聞くと、苦笑いを浮かべて
「なぁ、やっぱしない?初めてなのはわかってるけど、俺、限界」
と現状を訴えるように一層体を密着させて来た。首筋に当たる呼吸の荒さが切羽詰った状況だと伝えて来た。
性的な知識が無い訳ではない。むしろ医学的面においては一般人より詳しいかもしれない。本当につらそうな表情の圭介を助けたい気持ちもあるが、色々とリスクがあり過ぎた。
「避妊具とか無いでしょ?」
詳しい手順まではわからないが、いつか好きな相手とそういう行為に及ぶと言う事は理解していた
圭介は好きな相手で、そういう事になっても何ら問題は無いのだが、それでもこういった類のリスクは女側が背負う場合が多い。
最低限譲れない事を口にすれば、ぱぁああっと明るい顔になった圭介。テーブルに置いた財布をポケットにねじ込み、
「ちょっとそこのコンビニ行って来るから!」
と、これからする行為が嘘のような爽やかな笑顔を浮かべると、靴を履いて外に出ようとした。
日本代表が近所のコンビニで口に出すのも恥ずかしい品を購入。そんな嫌な姿を晒す訳にも行かず、圭介の帽子と赤いサングラスを持って追い駆ける事になった。変装道具を受け取った圭介は、頬に1つまたキスを落として、走り出されていたら、確実に追い付けない速さで駆け出して行った。
その後姿を私が呆れて見ていたお陰で、覚悟する暇も無く圭介と再び向き合う事になった。