それに最初に気が付いたのは、真田一馬だった。
日頃から奥手だの純情だのヘタレだの言われたい放題の彼だったが、彼もその手の知識に関しては同年代の男と同じくらい持っていた。故にそれを見た真田は一目でそれが何なのかわかってしまい、ヤカンもビックリな速度で急速に沸騰したように顔を真っ赤に染め上げた。
次にそれに気が付いたのは、郭英士だった。
日頃から奥手だの純情だのヘタレだの言われたい放題の友人を持ち、本人の秘密主義も手伝って女に興味が無いと言われる程の彼だったが、中学の時から長く付き合っている彼女が居る彼は一目見てそれが何なのかわかったものの、その数の多さと茹蛸のように真っ赤になった友人を見て、呆れたような表情に変わった。
3番目にそれに気付いたのは、水野竜也である。
中学校時代は王子様と言うよくわからないあだ名で呼ばれていた彼は、中学校後半とそして武蔵森で揉まれた事で精神的にかなりタフになっていた。そんな彼だが、学校に行けばファンと気の強いマネージャーが、家に帰ればおばさんと呼ぶと怒るおねえさま方に囲まれて生活していたせいか、女関係に関して言えば真田と良い勝負だった。正面に居た郭が呆れた表情になったので、郭の視線の先を追った先でそれを見て、「うわ、痛そう」とポツリと呟いたのであった。
4番目に気付いたのは三上亮である。
中学校時代からその容姿のお陰で女関係に関しては困った事が無いと言われていたが、実際の所は外見が華やか過ぎた事と彼に想いを寄せる女子が多過ぎただけで、他校に通う1つ下の従妹と喧嘩しながらも仲良く付き合っていた。横に居た後輩とは中学時代にいざこざがあったものの、高校時代にある程度払拭されたお陰で今ではそこそこ喋る間柄になっていた。その水野の「うわ、痛そう」に反応して振り返ると、それを見てニヤニヤと笑いながら「お前、最近彼女とどうよ?」と水野に尋ねた。
5番目に気が付いたのは須釜寿樹である。
いつもニコニコ笑っている彼だが、愛してやまない彼女との関係は思うようには行かないようで、時々漏らすツンデレな彼女は実はツンツンじゃないのかと周囲から言われる彼は、それを見た瞬間、表情から一切の笑みが消え、冷たい、そうどこまでも冷たい空気が彼の周辺から溢れ出し、近くに居た動物・・・もとい昭栄は天変地異の前触れを知らせるように離れていった。
6番目に気が付いたのは横山平馬である。
隣で騒ぐ昭栄がいなくなり静かになったと思った彼は、雰囲気が変わった須釜を一瞥した後、射殺せるくらいの鋭さを持つ須釜の視線の先のそれを見た後、ん、と首を傾げ、シャワーを浴びた後だった為に上半身裸だったものの、周りも似たような姿だったので特に気にせずにそれに近寄った。
それについて最初に口を挟んだのは藤村成樹である。
シャワー室から出た彼は、着替えている仲間の視線の大半がある一点に集中している事に気付くと、躊躇う事無くその先に突撃したのだった。
「やー、山口も隅に置けんなぁ」
肩を叩き藤村がそう言うと、叩かれた山口は何の事だと聞き返す。藤村が面白がって山口の背中を指で数回突付くと、理解した山口は頬を掻いた。
「あー、そんな凄いか?」
「もう凄いで。どんだけ激しかったん?!ってカンジや」
このこの、と藤村が肘で突付く。山口は大鏡の前に移動して自分の背中を見て、初めてそれを目の当たりにする事になった。
「うわぁー、凄いな、これ」
人事のように言う山口だったが、非常に嬉しそうな表情で背に刻まれた爪痕の数々を眺めた。
「15年分だから仕方ないか」
「なんだ、やっと上手く行ったの」
「おう!」
「おめでと」
「さんきゅー、平馬」
横山だけが事情を知っているのだろう。その15年と言う年月を尋ねた藤村に、片思い暦と横山が答えると周囲からありえねぇと言う声が上がり、流石の須釜も思う所があったのか冷気を出すのを止め、関係進展のために携帯を取り出すとカチカチを文字を打っていた。