原則として在校生は入学式に不参加だ。理由は簡単。うちの学校は精々頑張っても600人入るかどうかの体育館。入学生とその保護者、来賓に教員で手一杯なのだ。だからその日は休みなのである。
本来は。
俺、山口圭介は運悪くクジ引きで負けて受付係になりました。そんな訳で休みである今日、学校に行きます。
「ちくしょー」
「まだ言ってる」
慣れた学校への通学路。横を歩くのはいつもと同じ顔。涼しげな顔立ちに銀縁の眼鏡。俺の幼馴染にしてお隣さんのだ。
「まさか40分の1を引くと思わなかった」
「正確には39分の1だね」
私の分は抜かれてたからね、と話す。各クラスから1人ずつ受付係を選出した訳だが、休み1日を無駄にして入学式の係に立候補する生徒が居る筈が無い。どのクラスも公平にクジ引きで決めた。俺のクラス、2年3組、いや元2年3組は春休み前の終業式の日、クジ引きをして係を決めた。無情にも俺の手の中の三角クジにだけ『あたり』と赤ペンで書かれていて、呆然とする俺をクラスメイトがおめでとうと笑顔で囃し立てた。
「眠いし寒い」
「まだ肌寒いね」
がその辺の木々を見ながら器用に歩く。つられて俺も見る。例年よりも早く開花した桜。満開とはまだ言いがたい。5分咲きと言った所か。そんな事を思いながら桜を見ていると、横から「5分咲きかな?」とが呟いた。どうやら同じ事を考えていたらしい。
学校に続く一本道の坂を登る。こうしてとこの道を歩いて早2年。思えば去年も同じような事を話しながら歩いた記憶がある。
学校の校門が見えて来た。人気がまだ少ない。どうやら早く来過ぎてしまったらしい。
「、今、何時?」
「8時だけど」
「・・・早く来過ぎた」
集合時間は9時。後、1時間ある。
「まだ時間があるなら生徒会室来る?」
「・・・行く」
教室に行った所で誰も居ないだろう。それならこの幼馴染について行った方がきっと退屈しない筈だ。
「でも、お前、挨拶の練習は良いのか?」
「大丈夫。紙に書いた物を読むし、昨日の夜もやったから」
「まぁ、でも、本番前にもう1度やると思うけどね」と言うは、「じゃあ、チェックしてやるよ」と言う俺を見て柔らかく笑った。
最初から入学式に出席する事になっていた幼馴染。最早腐れ縁と言って良い繋がりは、39分の1の確率を掴んで入学式早々から繋がっているようである。