俺のクラス、3年4組は総勢38人だ。男子が19人、女子が19人。2人掛けの席に2人ずつ座ったとして、男子が1人、女子が1人余る計算になる。修学旅行積立金の中に余分な金は含まれておらず、よって余分な席は取る事は無い。そう言った理由により、1つだけ男子と女子が隣同士になる席が存在する事になる。
担任が決めた席順。修学旅行のしおりに書かれた席順には、山口の横に並んだ名前はだった。
俺、山口圭介は担任にすら幼馴染とセット扱いのようです。まぁ、仮にここで違う女子と隣だったら気疲れするだけだから良いけど。
帰りの新幹線。旅の疲れが出たのか、クラスメイトの大半が眠りについていた。俺はサッカーの遠征で移動には慣れていたので平気だったけれど、横に座る幼馴染は夢の中。微かに寝息を立てて静かに眠っていた。
昨日、呼び出されて2階のロビーに行くと、予想通り大人しそうな女の子がそこで待ち構えていた。俺の部屋まで来た女の子は退散したようで、残された女の子にせがまれて同じ階の休憩室まで移動する。そこで告白を受けた。男の庇護欲をそそられる様な可愛い子だとは思う。だけど、何故か、そう昔から女の子に告白されても俺は・・・。
嬉しいとは思う。だけどそれだけだ。付き合えるかと尋ねられたら無理だ。
俺は・・・。
気が付けばいつものように、「ごめん」と言っていた。女の子は悲しそうに目を伏せて、「私じゃ無理?」と聞いて来た。俺は首を振る。
「ねぇ、さんは山口君にとって何?」
その問いにはっとさせられる。女の子から告白は今までに何度も受けて来たが、そんな事を言われるのは初めてだった。プライベートに無闇に立ち入られたくないと思うがもう遅い。その女の子の言葉は俺の何かを確実に抉ったようだった。答えが出ないまま、言葉が出ないまま立ち尽くす。
「あ、変な事聞いてごめんなさい」
何かに居た堪れなくなったのかその女の子は告げると、目に涙を浮かべて足早と休憩室を立ち去ってしまった。
「俺が聞きたいよ、そんなの」
1人残された俺の呟きに答える者は居なかった。
しばらく呆然としたままの状態の俺。思えば居てはいけない場所で、俺もさっさと移動しなければいけなかったのだろうけれど、動けなかった。
「ねぇ、さんは山口君にとって何?」
先程の女の子の言葉が耳から離れない。俺はの・・・何?
「やぁ、妙な所で会うね」
まるで見計らったようなタイミングで休憩室に現れたのはだった。妙な所。確かにそうだろう。立入禁止区域の休憩室でお互い出会ってしまったのだから。
一言二言、何故ここに居るのか話をした後に、は自販機で2本ジュースを買うと、2本とも俺に手渡した。
「はい、1本は山口にあげるよ。もう1本はさんにね」
「は?何で俺とに?」
「大方、さんの事で悩んでるんじゃないの?」
「あ、いや、別に・・・」
幼馴染の事で悩んでいるなんて格好がつかなくて、思わず嘘をついた。しかし、その嘘を気にする素振りも見せずに、
「あ、外れた?じゃあ、俺にはわからなそうだし、山口に詳しいさんに相談してみても良いんじゃない?」
と、全てを見通したようにそう告げた。少しバツが悪かったが、気を取り直して、に「さんきゅ」と伝えると、休憩室を後にした。
7階のの部屋に行くとそこには姿が見えず、何の気無しに休憩室を覗いたら、そこにが居た。から貰ったジュースをにも渡し、2人で飲む。逃げて来たのも本当の事だ。途中、一度、部屋に戻ろうとした時に、俺の部屋の前で俺の不在を聞く別の女の子の姿を見て、気が付かれる前に7階まで移動した。
結局、休憩室でろくに会話らしい会話などしなかった。抉られた何かは取り戻せずに喪失感は拭えないけど、かなり和らいだ気がした。
は何も聞かなかった。ただそこに居てくれた。それだけで良かった。
眠るの顔を見る。俺にとってのは何なのかまだ良くわからない。
ただとても大事。
それが今の俺にわかる事。