体育祭の一切を取り仕切るのは、生徒会ではなく体育祭実行委員会である。GW明けの月曜日の5時間目。本来ならばHRの時間だが、生徒全員体育館に集められて抽選会が行われていた。


「なんか横にが居るって久々な気がする」
「全校集会だと大抵私は前の方に居るからね」


本日、生徒会長さまは久々のお休み。俺の目の前で山口と仲良く談笑しています。


こんにちわ、初めまして。俺は3年4組サッカー部の。山口圭介の友人です。どうぞお見知りおきを。


「今年は何組になると思う?」
「去年は白組だよな」


さて、校内で知らぬ者は居ないと言われる人気コンビの山口とさん。爽やか系スポーツ少年と理知的万能少女の組み合わせ(俺から見ても美男美女)。生まれた日も一緒、住んでいる家は隣同士と言う幼馴染と言う間柄。かなり仲が良い2人、仲良く並んで今年の体育祭の組の色の話で盛り上がっていた。


(本当、何で付き合って無いんだろうね。不思議だよ、俺)


「去年白組。一昨年は赤組だよ」
「今年は緑か青辺り来るんじゃねぇの?俺、桃以外なら何でも良い」
「圭介にピンクの鉢巻って似合いそうだけどね」
「勘弁しろよ。濃い目のピンクは許せるが薄いピンクは遠慮したいぞ。・・・次、うちのクラスか」
「田中くん(学級委員長)に掛かってるね」


(山口がピンクって・・・)


さんの趣味に思わず首を捻る俺。1組から始まってようやくうちのクラスに番が回って来た。学級委員長に率先して立候補した田中(通称、七三)は、緊張した面持ちで(ロボットみたいな歩き方だ)壇上に上がると、体育祭実行委員が持つ箱に手を伸ばした。箱をかき混ぜる様に動く腕。しばらくして箱から腕を引き抜くと、手には青い玉。


『3年4組 青組』


青組、とスピーカー越しに聞こえたアナウンス。途端に騒がしくなる俺の周囲。俺の目の前も例外ではなく、


「よし、青組だ。さらば、ピンク」
「残念」


残念そうにわざとらしく溜息を吐くさんと、ほっとした表情の山口。だから、年頃の男に薄ピンクは微妙な色合いなんだって。俺も内心ほっとしてるくらいなんだから。


「面白がってるだろ、
「うん。長ランにピンクの長鉢巻の圭介も面白いと思って」
「俺が団長になるとは限らないぞ」
「でも、候補者のリストには入ってると思うけど」


俺も同感。毎年体育祭の各チームの団長は最高学年の人気がある男子がやってるから、間違いなく山口はその条件を充分に満たしているからリスト入りしてると思う。


あ、俺?俺は普通。バスケ部と剣道部の奴も人気あるし、俺、目立つの嫌いだから。


『次に2年生の抽選に入ります』


3年の抽選が終わり、次に2年生。1番手、2年1組、学級委員長らしき男子が壇の上に登ると、


「斉藤くん、青引いてー」
「青出してー」


途端に始まる青コール。人気高いな、うちのクラス。


「・・・うちのクラスってこんなに人気あったのか?」
「バスケ部の高柳君や剣道部の鈴木君やサッカー部の君がいるからじゃない?それに圭介もいるし」
「俺も?ってか・・・」
「何?」
「・・・いやなんでもない」


前に座っていた山口がこっちに移動して来て、体育座りしてる俺の横に座ると、小声で話し掛けて来た。


「あのさ、
「ん?山口、どうした?」
「うちのクラスで人気高い女子って誰?」
「・・・知らないの?」
「知らない」


返って来た返答はやっぱりと言うか、予想した通りの物だった。


「・・・まぁ、さんといつも居るなら必要ないだろうしね」
「そういう関係じゃねっての、俺ら」


そういう関係と言うのは恋人関係と言うもの。不機嫌そうに眉だけ顰めて言う山口は、そういう風に見られたくない意思表示に一見すると見えるのだが、付き合いの長い俺は(山口とは中学校3年間同じクラスなんだよな)これが山口の照れ隠しのポーズだと言う事を知っている数少ない人間の1人だ。


(ちなみにさんは知らない。だから山口の態度をそのまま読み取っている)


「ふーん。さんも山口と普段一緒だから諦めている奴も多いけど、結構人気高いんだよ」
「へぇ、あいつも」


一瞬、顔を顰める山口。俺から見ればもうバレバレなのにな、山口って。他の奴に取られたらどうするんだろう。さんは山口以外、特に見てる奴は居ないから今の所大丈夫そうだけど。


さんの『見てる』も、恋愛感情なのか幼馴染として親愛なのかわからないけど)


「後は吹奏楽部の千葉さんや陸上部の小早川さんかな」
「さんきゅー」
「で、何で聞いて来たの?」
「いや、2年がやけに青狙って来てるから気になって」
「山口らしいよね」
「は?何で?」
「色恋沙汰から遠い辺りが」
「ほっとけ」
「そんな山口に良い事を教えよう」
「な、なんだよ?」


ニヤリと意味有り気に笑ってみると、山口に耳を貸せとジェスチャー。不審だと訴える目を向けながらも、山口は近寄ってきたので耳元で内緒話。途中、肩を僅かに跳ね上げたり(図星だったようだ)顔を顰めたり照れたり大忙しの山口は、俺の話が終わると「あー」と口篭った後、「ありがとな」と照れ臭さを隠し切れない表情で礼を言った。


「どういたしまして」


(お互いしか見えてないから、山口もさんも鈍いんだよね)


俺の心の呟きは誰も知らないけれど、この見ていてもどかしい2人が上手く行けば良いと心から思っている。


(山口の惚気って聞いてみたいんだよな)




俺の願いが叶うまであとどのくらい?