考えてみれば新入生にとって、体育祭は入学して初めての行事だ。入った頃は若干小学生気分が抜け切って居ない子も居ただろうけれど、否応無く中学校のカリキュラムは組まれてそれを行っていくうちに小学生気分は一気に抜けて、たった1ヶ月程度で大人びた顔になるのだから面白い。
さて、そんな初の学校行事に浮かれる1年生は、現在教室で団長の説明に熱心に耳を傾けている。
私、は現在南校舎1階1年教室の廊下に居ます。視線の先には我が青組の団長、山口圭介。今日は初の青組の合同練習の日なので、団長が教室に挨拶に来たのです。
「凄いね」
「くん?!」
「やぁ」
突然背後から現れたくんに少し驚いた。くんは圭介の友達。サッカー部の部長さん。ポジションはDFでかなり上手いらしく、圭介とも仲が良い人。
「山口に向けられるあの視線の数々が凄いね」
1年教室の壇上に立つ圭介を見て、君は楽しそうに言った。
私達は今廊下から教室の中を窺っている。教室内の人間の全ての視線が挨拶をする圭介に向けられていた。男子は尊敬の眼差し、女子は尊敬と憧れの眼差しと言った所だろうか。そう分析して君に話せば、良いの?冷静に分析していて?と少しおかしそうに笑った。
質問の意味がイマイチ理解できなかったが、圭介がそういった目で見られる事は良い事なんだと思う。彼はこれから日本で世界で色んな舞台で観客を魅了して行く人なのだから。
うん、と答えると、君は少し呆れた表情になって(君は圭介と違って考えが読みにくい)(世話好きなのは知っている)「そのうちわからせて行けば良いか」と言うと、ダンスの方見てくると行って廊下の向こうへと歩いて行った。
(何だったんだろう?)
「おーい、ー」
「あ、圭介、ごめん」
いつの間にか団長の挨拶が終わっていて、廊下に居た私を呼びに圭介が来ていた。
「珍しくぼーっとしていたな。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。ちょっと考え事していた」
圭介と話しながらも、さっきの君の言葉が頭の中で何度も繰り返し響いていた。
「そのうちわからせて行けば良いか」
君は何を企んでいるんだろう?気になるけれど、今は目の前の体育祭の準備に集中する事にした。