勝負というものはいつ何が起こるかわからない。その事は重々理解しているつもりだが、やはり時に起きてしまうものだ。


リレーは最初は順調だったのだが、第5走者、3年女子1人目である陸上部出身のクラスメイトが盛大にこけた。致命的なミスが完全に致命傷にならずに済んだのは、彼女が陸上部だったお陰だろう。追い抜かれるものの素早く立ち上がり走り出し、何とか第6走者に繋げる事が出来た。


「怪我、大丈夫?」
「ごめん、最後の最後で転んじゃった」


泣きながら話す彼女を宥める。「ごめん」と繰り返す彼女。最後の体育祭、彼女は優勝したかったのだろう。私も圭介も慰めの言葉を掛けるが、彼女の嘆きは大きい。既に走り終えた君を呼び、彼女を任せる。本来ならばもう少し彼女について居たかったが、そうもいかない。泣く彼女を任された君は、「負けたら承知しないよ」と笑って見せた。


靴紐を結び直す。足首を回し、ストレッチをする。その横では同じようにストレッチをする圭介。


「圭介」
「ん?」
「本気で行くからね」
「当たり前」
「形振り構わず行くからよろしく」
「ああ」


握った拳と拳を合わせ、私と圭介はそれぞれ位置についた。もうじき私達の番が来る。


、本気で行きます。









勝負は何が起こるかわからない。だから油断は許されない。


俺自身の油断でチームが負けて以来、俺の信念に加わったのは、油断しない事、もし誰かがミスした時はそれをフォロする事。そして勝つ事を諦めない事。


第5走者であるクラスメイトが転んだ時、俺の組の順位は一気に最下位まで落ちた。しかし、転んだのが陸上部で素早く立ち上がると次にバトンを回し、挽回できるギリギリのラインで留める事が出来た。


嘆くクラスメイトの小早川さん。気持ちは痛いくらいわかった。走り終えた彼女はミスした後に交代を言い渡された選手の様。もう挽回するチャンスは彼女には無い。後の走者に託すしか無いのだから。


を呼ぶ。走者は既に第7走者に回る所。軽くストレッチをするの隣で俺もストレッチをする。


「圭介」
「ん?」
「本気で行くからね」


久しぶりに見たの真剣味を帯びた目。背筋がゾクリとする。日頃、なかなかスイッチの入らないが本気になった。それが酷く嬉しい。


「当たり前」
「形振り構わず行くからよろしく」
「ああ」


握った拳と拳を合わせ、バトンゾーンの方に移動した。は第11走者、俺、山口圭介はアンカーだ。さあ、俺とが本気になった以上、悪いけどこの勝負貰うからな。