第11走者、先頭の白組の走者が走り出した。赤、黄、緑が走り出す。第10走者の2年の男子が最後のコーナーで桃を抜いた。


そして私の手にバトン。受け取った瞬間、私は久しぶりに全身のバネを使った。


100mは長いようで短い。目の端に捉える事が出来たのは、黄と緑の鉢巻。後はもう少し前方だろう。どこまで行けるかわからない。そんな事は計算したって無駄でしかない。私に出来る事はただ走る事。そして抜く事。


緑の鉢巻を後方に追い遣り、黄を抜いた。ようやくそこで赤と白が見えた。


苦しい。だけど走る。


全力で走って、声が出ない私。だけど圭介は何を私が言いたいのかわかったのだろう。


「任せろ!」


頼もしい一言と共に彼は目の前の赤と白を抜く為、普段の颯爽とした走りではなく、弾丸のような勢いで駆けて行った。







本気のはやはり速い。普段の涼しげな表情を崩して、必死で前方を走る走者を抜いて行った。が最後のコーナーを回り切った頃、白のアンカーが走り出し、赤もそれに続いた。口を軽くパクパク動かす。声が出なくても聞かなくてもわかる。


「任せろ!」と一言告げて、バトンを受け取るとそのまま俺は走った。






バトンを渡し、後方の走者の進路妨害にならないよう、急いでトラックの中に入る。本気で走った事などここ1,2年無かった為、呼吸の仕方をすっかり忘れていた。何度かむせた後、苦しくて地面に倒れ込む。形振り構わずに走ったので、本当に苦しいのだ。砂埃を覚悟していたのだが、寸での所を君に支えて貰った。


「頑張ったね」と笑顔で言う君。「まだだよ」と途切れ途切れで言うと、耳に大きな歓声が聞こえた。津波のように沸き上がる大歓声。その先に赤を抜き、白を抜いた圭介の姿があった。


ゴールテープを切る圭介。青組のリレーのメンバーが圭介の下に走る。


「行こう」


高揚した声で君が誘う。彼の手を借り、立ち上がろうとした所で異変に気付いた。


くん、どうしよう・・・」
「どうしたの?」
「足、やっちゃった」


足がずきずきするけれど、嬉しくて仕方ない。そう言ったら、君はそうだねと同意して頭を撫でてくれた。





ゴール手前で白のアンカーを抜いたと言う感覚のまま、ゴールした。走って来る青の鉢巻の生徒。転んだ小早川さんも泣きながら、でも嬉しそうに「ありがとう」と何度も繰り返した。


囲まれたメンバー1人1人に声を掛けて行く。その中にが居ない。も居なかった。


「小早川さん、見なかった?」


俺の問いに小早川は涙声で「あっち」とトラックの中を指差した。そこにはの肩を借りて足を引き摺りながら歩くの姿。それを見て唖然とする俺。


「あー!普段しっかりしてる癖に、こういう時にお前は本当!」


だから目が離せないのだと、そこだけは口に出来ないけれど、そう思いながら2人に駆け寄った。


「凄い。あの先輩に文句言ってる」と、2年の男子が言っている事に気付かないまま。と代わって俺の肩を借りて歩くのペースに合わせ、青組の輪に戻る俺達。


大歓声で迎えられるまであと・・・・。