「・・・」


腕の中にある袋は1kgにも満たない重量の筈なのに、重く腕に圧し掛かっていた。


「・・・」


恐る恐る封のテープを取り、中を見る。


「・・・」


何度見ても中身は変わらなかった。諦めて渋々袋から取り出した。


「・・・」


黒い布だ。レースのついた。服・・・と呼ぶには抵抗がある。衣装と言った方が個人的にしっくり来た。デザインはゴシック、なのに所々女の子テイストばっちりな甘さも備わっていて。一般的にはドレスと呼べる品だろう。エプロンさえついていなければ。


私、の手には世に言うメイド服なるものがあった。しかもゴスロリ風味の。


(これを着ろと言うの・・・)


服の肩の部分を摘み、服を広げて見る。


(似合わない。絶対似合わない・・・)


自分の顔の造りは良くわかっている。可愛い・綺麗な女の子として私に記名してくれたクラスメイトには申し訳ないが、似合わない事この上ない。思わず溜息が出そうだった。後ろから圭介に呼ばれなければ。


ー。似合うかー」


(あ、カッコイイ・・・)


既に衣装を着替えた圭介は、今は執事姿だった。黒の燕尾服にネクタイ、そして白手袋。中学生にしては高い身長も手伝って、服に着られる事無く見事に着こなしていた。


「よく似合ってるよ」


思ったまま口にする。付き合いの長い分、私の言葉が世辞か本心か見分けが付く圭介は、照れ臭そうに髪を乱雑に掻きながら笑って見せた。その姿すらカッコイイと思う私は、身贔屓な目をしているのか、それともこの淡い気持ちのせいなのか。まだわからない。けれど今は傍に居られるから、今はまだこのままでも良いと思う。


はそれ着ないのか?」


圭介が私の手元を覗き込み、手の中の衣装を手に取った。圭介の視界にフリルの世界が広がる。


「すげぇ・・・」


感嘆とも取れる呟きを圭介は漏らす。呆れているより、この衣装の凄さに純粋に感動しているようだ。


「凄いでしょ」
「凄いな」
「・・・コレかなり着たくないんだけどね」
「・・・まぁ、お前の服のセンスとは程遠い服だからな」


着ろと言われなかったので少し安堵した。着なければいけないのはわかっている。しかし、まだ決心が付かなかった。そんな決心の付かない私の背中を押したのは、目の前の幼馴染でも期末考査で毎回僅差で順位を争っているクラスメイトでもなく、


さん。衣装合わせしてー」


クラス副委員長の時田さんの言葉だった。拒否権は当然無い。溜息を1つ吐き、覚悟を決めると更衣室に向かう為に教室を出た。