「・・・ねぇ、君」
「何?さん?」
「何でこんなにお客さんいるんだろうね?」
「この衣装の効果じゃない?」
「そんなに皆好きなのかしら?」
「そういう専門店に行かないとこういう格好の人達は居ないらしいから、珍しいんじゃないの?」
「なるほど」
満員御礼と札が出せる程の盛況振りを見せるのは、我が3年4組の教室。普段使っているテーブルをくっつけて、2人掛けと4人掛けの席を作り、その上に白いテーブルクロスを掛けた喫茶店。給仕するのは6人の執事とメイド。物珍しさが受けたのか、同じ学校の生徒は勿論の事、他校生や明らかに高校生と思われる人達や保護者の人達で賑わっていた。
私、は君と裏方のブースで教室内を観察しています。
「さんは大丈夫だった?」
「何が?」
「ナンパとかされなかった?」
「大丈夫。丁重にお断りしてるから」
「そう。中にはしつこいのが居るから気をつけてね。まぁ、教室には俺達も居るから何とか――」
君はそこで言うのを止めた。いや、止められた。教室から聞こえた騒ぎ声に。
千葉さんの「止めてください」と言う声と「良いじゃん、一緒に回ろうぜ」と軽口を叩く男の声。嫌な予感がしてブースから出ようとするが、君の腕に阻まれた。
「ここは任せて」
鋭い眼差しに押され、頷く。君は教室に出て行き、厄介な客と押し問答が続く。どうやら応対しているのは圭介と君の2人のようだ。「俺、客なんだけど」と苛立ちを露わにした男の声が聞こえる。客は客でも嫌がらせに来た客でしかないだろうと心の中で毒づくと、野太い声が聞こえた。
「当店は貴方のようなお客様にはお帰りしていただいてるのですがね」
声の主を見たのだろう。それまで高圧的な態度だった男が悲鳴を上げる。ブースの仕切りから覗くとそこに居たのはやはりうちの担任のキクちゃんこと、菊池先生だった。身長180cm 体重は優に3桁を越え、リンゴを軽々握り潰せる程の握力を誇る体育教師である。
ボキリと腕っぷしの強さを示すかのように手の関節を鳴らす。その音すらも恐怖だったのだろう。「失礼しましたー!」と大声で叫んで男は逃げて行った。教室中がその後拍手に包まれた。「キクちゃんいいぞー!」「キクちゃんカッコイイ!」と生徒からも歓声が上がる。そろそろ教室に行っても良いかなと思ってブースを出たら、今度はに押し戻された。
「、もうちょい待って」
「え?なに?」
がちらっと見た方向に目をやると、そこに居たのは抱き合う男女の姿。圭介と千葉さんの姿だった。
胸が締め付けられるように痛んだ。