コンビニに入った俺と。雑誌のコーナーで欠かさず購入しているサッカー雑誌を見つけ、横に居るに「買って良い?」と尋ねる。は「後でお金払ってね」と念を押すように言い、頷いた俺は雑誌を手に取った。
俺、山口圭介はに650円借金しました。
明日速攻で返そうと思います。
コンビニの前は女子高校生達がたむろしていて、自動ドアを出た時からひそひそと話しながら、見定める目で見られたので、俺はを連れて近くの公園に移動した。コンビニで買ったスポーツ飲料のキャップを開けて飲む。一息つくと、俺はに今日の事を洗い浚い話す事にした。
全てを聞いたの第一声は「結局の所、山口はどうしたいの?」だった。
「俺は・・・」
そこで口篭り黙る。
「少しずつ整理して行こうか?」
ジャングルジムの1番上に座るが、進入禁止のバーに腰掛ける俺を見る。その目は恐ろしい程優しい。
「今日、俺が怒ってた事には気付いた?」
「何となくピリピリしてると思ったのは騒動の後から。はっきりわかったのはお前に駄目って言われた時だ」
「さんの様子がおかしいと思ったのはいつから?」
「それは俺が休憩から戻ってあいつの顔見た時かな。今にも倒れそうな顔してて、話し掛けても反応がおかしいし」
「何で俺とさんがそうなったかわかった?」
「・・・騒動後の千葉さんのアレだろ」
「半分正解。山口が千葉さんに抱き付かれただけなら、俺も怒らなかったし、さんも傷付きはしなかっただろうね」
傷付きの言葉が胸に刺さる。放課後に見たあの切なそうな表情が頭を過ぎった。
「自覚が無いみたいだから教えるよ。山口が千葉さんの背中に手を回したり、頭を撫でなきゃ何も問題にならなかった」
淡々とした物言いが少し癇に障った。ただ怯える女の子を宥める為に取った行為を批難される謂れは無い。
俺はその時不満そうな顔をしていたんだと思う。俺の顔を一瞥すると、はせせら笑う。
「山口にとって千葉さんってどんな女の子?」
「え?クラスメイト?」
「ふーん。じゃあ、そうだね。仮にうちの委員長の田中が大嫌いな雷で怯えていたとしよう。そこにさんが通り掛って、うっかり恐怖のあまりに田中がさんに抱き付いてしまった。さんは優しいから、その状態が不本意でも田中を突き放さず、自愛の心で田中の背中を擦ったり頭を撫でていた。そこに偶然山口が通り掛った。山口の目には抱き合う男女の姿。さあ、山口はこれに対してどう思う?」
「どうって面白い訳ないだろ!・・・田中の事、思わず殴るかもしれないし、が田中の事好きなのかなって思って絶望するかもしれない」
「なんだ。そこまで理解してるなら後は簡単だよ。田中が千葉さんで、さんを山口に置き換えて、今言った事をもう1度言ってみて」
「置き換えてって・・・。要は雷で怯える千葉さんに俺が抱き付かれて、仕方なく慰めるつもりで背中擦ったり、頭撫でた所をに見られたって事だろう?」
「そう。さんにはそれが面白い光景ではないだろうし、思わず殴りはしないだろうけれど、山口が千葉さんの事を好きなのかと思って絶望したのかもしれない」
「まさか!がそんな誤解!」
「しないと思ってる?」
ギロリと上から睨まれ、その眼光の鋭さに思わず身を竦めた。同級生の筈なのに、時々目の前のこの男から圧倒的な威圧感を感じるのは何故だろう。
「幼馴染でいつも一緒で。喜びも悲しみも色んな感情も思い出も君達は共有して来たんだろうと思う。だけど気持ちや感情は時に言わなければ伝わらない。今は擦れ違ったままでも、いつか伝わると信じて甘えてはいけない。大事な物は自分で守りなよ、山口。好きなんだろう?」
から威圧感はもう感じなかった。渦巻いていた混乱が全て解かれ、頭の中がすっきりとしていた。
「うん、好きだ」
笑って上に居るに言えば、はふわりと笑って見せた。の背後に見える月がやけに綺麗に見えた。