朝起きて、身支度をしてリビングに行くと圭介が居た。


「おふぁほう」
「・・・おはよう」


昨日、あんな事があって、勝手に傷付いた。圭介に会うのが少し憂鬱だと思いながらも、学校行事をさぼる訳にも行かない。だけど憂鬱な気持ちはどうしようも出来ず、普段よりも支度に時間が掛かった。登校中、もしくは教室で圭介に会った時、どんな顔をすれば良いんだろう。頭の中でずっとそればかりがぐるぐる回る。いつも通り接する事が出来れば良いなと考えていれば、問題の人物が朝から我が家に居た。しかも、何故か食事中だった。テーブルには私の分の食事も既に出されているので、席に着く。席は圭介の正面だった。


食事中、圭介は話し掛けて来なかったので、黙々と食事をする。どこで今日は会うんだろうとビクビクしていたのに、まさか自分の家で会うと予想すらしていなかった。身構える前に会ってしまい、驚いたには驚いたけれど、どこか拍子抜けしてしまった感じが否めない。


食事が終わり、食器を流しに運ぶ。時計を見ると7時。文化祭の為に早めに登校する事が決まっていたので、ソファーに置いた鞄を取ろうとしたら――。


先に食事を終えていた圭介に鞄を取られ、


「おばさん、ご飯ご馳走様でしたー」


と言うと、私の手を引いてリビングを出た。


「え?圭介、どうしたの?」
「ほら、靴履いて。学校行くぞ」
「え?あ、うん・・・」


圭介は私の質問には答えなかった。促されるまま靴を履くと、また手を引っ張られ、引き摺られて外に出た私は、たたらを踏み体のバランスを崩す。


「大丈夫か?」


倒れる程では無かったが、傍に居た圭介に支えて貰った。


「あ、うん・・・」


抱き寄せられる形で支えて貰ったので、突然の急接近に顔を赤くしてしまい、慌てて顔を逸らすが、どうやら遅かったようで、


「あ、悪い・・・」


と、圭介が支えていてくれた手を放した。


今までならこんな事があってもこうならなかったのに、やはり気持ちを自覚してしまったせいなのだろうか。ポーカーフェイスは得意な方だと思っていたけれど、慣れない感情が急速に表に出てしまったせいか、顔の赤みはどうしようもなかった。俯いたところで最早この顔の赤さを隠すのは不可能だろう。だけど顔を上げる事が出来なかった。圭介がどんな顔をしているか見るのが怖かった。


「なぁ、・・・」
「うん」
「俺さ、馬鹿なんだよ」
「はぁ?!」


脈絡の無い言葉に思わず顔を上げた。そこにはしてやったりと言う圭介の顔。騙されたと軽く睨めば、


「別に騙してないって。本当自分でも馬鹿だと思う」


と圭介は言った。


「話しながら行こうぜ」


と言うので頷くと、圭介は私の右手を取るとそのまま歩き始めた。1歩遅れて私も歩き出す。今は後姿しか見えないけれど、手を取った時に見た圭介の顔は少し赤く、期待しそうになる気持ちを抑えるのに必死だった。