嬉しいんだけど、・・・・・・・・恥ずかしい。


教室に入った途端、クラスメイト達に冷やかされ、私、は顔を赤くしたまま黙り込むしかなかった。


どう言葉にして良いのかわからない。圭介とはそんな・・・・・・恋人関係とかでは無いから違うって言いたいけれど、恋人関係になりたくないのかと聞き返されたら、答えはNOだ。ずっとずっと一緒にいられるのだ。なりたいとは思う。だから、違うなんて言えなかった。


私同様、圭介もからかわれていた。真っ赤な顔で「うるさい、うるさい」とからかう周囲に対抗して見せるが、どう見ても分が悪いだろう。そんな顔で言っても説得力が無いと、クラスの男子に言われていたけれど、確かにその通りだと圭介の顔を見てそう思った。


真っ赤な顔の圭介の顔をちらりちらりと盗み見る。偶然、かち合った視線。慌ててお互いに目を逸らす。意識しないように、しないようにと心の中で何回繰り返しても、どうしても意識してしまう。周りに変に冷やかされているのも、要因の1つなのかもしれない。文化祭、最終日。自分達の手で準備する中学校生活最後の行事と言う事もあって、私達のクラスは異様な空気に包まれていた。


浮付いている気持ちをゆっくりと落ち着かせていると、ふと強い視線に気が付いた。ふわふわと不安定に浮かぶ気持ち。そこに冷水を浴びせられたような、背中にピリリと何かが走った感覚を感じた。隣で茶化すと話をしながら、手にした荷物を邪魔にならないように後ろに置く動作をしながら、視線の先を探す。からかうクラスメイトの輪から外れた所、数人の女子が固まっているその真ん中に彼女が居た。


(千葉さん・・・?)


視線の先の人物を見て、おおよその見当が付いてしまった。私は圭介が好きで、千葉さんも圭介が好き。わかりやすい方程式だ。私と彼女は恋敵と言う答えしか出て来ない。その答えしか無い以上、私達は分かり合えないし、互いの気持ちなど思いやる事など、それこそ2人とも圭介に振られない限りは出来ないだろう。


何故、睨むのと言えない。ごめんなさいと謝る事も出来ない。私が彼女で、彼女が私の立場だったら、私は彼女から何も聞きたくないから。







千葉さんの視線に居心地の悪さを感じながらも、本日も満員御礼なクラスの出し物のお陰で気が付けば終了の時刻を過ぎていた。最後の片付けに追われる私達。最初、着るのを渋っていたこの衣装も、もう終わりかと思えば少しだけ名残惜しいと思うから慣れと言うものは、不思議だと思うし、それ以上に恐ろしく感じる。


さん、これ、準備室までお願い」
「あ、はーい」


教室の展示物を剥がす手間を省く為に壁に貼り付けた暗幕。少し重たいそれを抱えて準備室まで行けば、手を伸ばしたドアが開ける前に勝手に開いた。


「あ、ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です」


中から出て来たのは執事姿の高柳君だった。きっと私同様、何かを片付けにここまで来たのだろう。開けてくれたドアから中に入り、部屋の隅の暗幕の山の上に積み上げる。少々重かったので一息吐く。行事を成功出来たと言う達成感で満たされてはいるが、動きっぱなしだったせいで、体はクタクタな状態だった。


ちゃん、あのさ」
「何?」


今、思えばあの時、私は疲労や色んな事で危機感がかなり薄れていたのだと思う。文化祭の準備が始まった頃はそれなりに警戒していたのに、最近、あまりちょっかいを出されなかったから油断していた。


ちゃんは、山口の事好きなの?」


問い掛ける言葉は優しいのに、私を見る高柳君の目は酷く険しく、1つの答えしか望んでいないように見えた。


だけど、私には彼が望んだ答えは口に出来なかった。