磐田市のとある市立中学の3年4組。


「もう噂になってると思うが、今日からうちのクラスに転校生が入る事になった」


担任の言葉にざわつく教室。「静かに」と笑いながら担任が注意すると、黒板に転校生の名前を書いた。、と。転校生は噂通り女子だったので、クラスの男子が途端に喧しくなる。噂の発信源である男子が職員室で見たらしいのだが、結構可愛い子らしい。期待に胸を膨らます男子を担任がこれまた笑いながら注意する。そんな朝の教室の光景を、俺は欠伸を噛み殺しながら教室の1番後ろの席で眺めていた。


担任に促され、廊下で待っていた転校生が教室に入って来た。噂に違わず綺麗と形容出来る容姿だった。俺と担任を除くクラス中が喧しくなる中、転校生は緊張している素振りをまったく見せず、教卓の前に移動すると


です。1年間と言う短い期間ですがよろしくお願いします」


にこやかに笑って短い挨拶をした。


「机は1番後ろ、山口の隣な。おーい、山口、手を挙げろー」


眠気に半分支配されていた脳が、名前を呼ばれる事で刺激され、意識が覚醒する。呼ばれた事に1テンポ遅れて気付き、急いで手を上げる。


「眠そうだな、昨日、練習だったのかー?」
「遠征試合でした」


目を擦りながら担任の言葉に答える。「大変だろうが頑張れよ」と言う担任に頷くと、足音が近付いて来た。鞄を持った転校生だった。俺の隣の空きスペースに机が運び込まれていて、転校生はその席に着席すると鞄から教科書を一式取り出して机の中に入れていた。その姿を眺めていると、不意に転校生がこちらを見る。


目が合った。


今思えばこの時から俺達の関係は始まっていたのかもしれない。


「よろしく、山口君」


ああ、にこやかに笑う彼女が今となっては懐かしい。