すっかり木枯らしが吹く季節へと変わり、寒い寒いと言いながら練習に入るようになった11月の初旬。先々週に推薦入試も終わり、山口・両家で合格祝いを行ったのが数日前の事。秋冬仕様に模様替えをしたの部屋は、暖かい色合いの物が増えていた。もうじき、本格的な冬が来る。
「マネージャー?」
「ああ」
春は始まり、秋は終わりの季節だと言う。それは植物の芽吹きと枯れから来ているのか、それとも部活動から来ているのかわからないが、そんな終わりの季節に新たな始まりの話を俺は幼馴染に持ち掛けた。それは誰から見ても時期外れと言わざるえない話だ。
俺が持ち掛けたのは地域選抜のマネージャーだった。この地域選抜もトレセン合宿が終わるまでのもので、基本的に夏から秋に掛けて召集され、2月後半に解散される。U-14、U-15、U-16の選手の入れ替わり、ジュニアユースからユースチームへの昇格、高校進学などなど、この時期、選手を取り巻く環境が変わりやすい。そのため、地域選抜の編成と解散はこのような短期間に敢えてしているらしいのだが、上に上がるにはまずこの地域選抜からというのは俺達の中では当たり前の話になっているので、当然ながら参加者の誰もが重要視している訳だ。少しでも良い方向に動くのは当たり前の事で、雑務をしてくれるマネージャーを頼むのもそう珍しい事では無かった。実際、既に関東選抜は選手の彼女をマネージャーにしていて、士気向上にも一役買っているようだが。
「しかし、3年生の私がやって良いものなの?」
「ああ、2月のトレセン後に解散するからな」
地域選抜とトレセンの仕組みを説明すれば、は納得したのかくるくると手元で回していたシャーペンを一度止めた。
「第一希望に受かったから、余裕が無い訳ではないけど・・・」
「何かあるのか?」
「・・・思えば、特に何も。生徒会も引継ぎが終わったし、他に高校を受ける予定も無いし。何だろうね。今まで忙しく動いていた分、急にこう暇になるとやる事が思い浮かばないというか、何かしていないと落ち着かないというか」
「要は特にやる事は無いんだな?」
「恥ずかしながら」
「いや、別に恥ずかしくないだろ」
思えば、はサッカーの練習に忙殺されている俺ほどでは無いが、なかなか忙しい中学生活を送って居た筈だ。この時期になってようやく解放されたと言うべきか。しかし、暇になったからのんびりしない、というか出来ないのがらしいと言えばらしい。はそんな自分自身を苦笑しているけれど。
「それならどうだ。マネージャーの話」
「そうだね。圭介もくんも亮も平馬くんもいるみたいだから、知り合いも多いみたいだし、手伝う分には良いけど・・・」
「何かあるのか?」
はクラスメイト、三上は従弟、平馬はこの夏に1度会っただけだが、東海選抜におけるの知り合いは結構多い。三上達、武蔵森は別として、東海地方全域から選手を招集する訳だから、ジュニアユースに知り合いでも居ない限り、1人2人居れば良い方だ。
「圭介はそれでいいの?」
「あ?俺?別に良い。・・・というか、出来たらやって欲しいから話持って来たんだけど」
「以前の圭介は私がサッカー関係の友人と会うのをどこか嫌がっている節があったような、そうな気がしたけど、・・・・・・気のし過ぎだったみたい」
ごめんね、と言う謝罪に俺は頭を振る。実のところ、の指摘は当たっていた。
須釜はを気にしていたし、平馬はと直接会ってすっかり気に入ってしまったし、他の奴らにしたってに会ったらきっと気に入ると思う。・・・だって、俺の自慢の幼馴染だから。
きっと以前の俺ならをマネージャーに誘わなかったと思う。サッカー絡みの俺の知り合いで、俺なんかよりも格好良い奴なんて一杯居る。その中の誰かに、俺の知ってる誰かにを取られたくなんて無かった。知らない奴はもっと御免だけど。との距離が縮んで、の気持ちが俺に少なからず向いているのを知って、の後押しもあって俺もようやく自分の気持ちに素直になれた。誰が来てもを渡さない覚悟が出来て、やっと自分に自信が持てたお陰か、以前ならば考えもしなかった話をこうしてに話している。嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちだが、こんな自分も悪くないと思う。
「ま、良かったら頼むわ」
「うん。よろしくね」
柔らかく俺に対して微笑むを見ると、そう思うんだ。
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地域選抜の編成、解散については適当です(笑)