(小田千裕視点)
「・・・と言う訳で今日から皆の世話をしてくれるマネージャーのさんだ」
東京選抜との遠征試合から2週間が過ぎた頃、マネージャーとしてやって来たのは圭介の幼馴染の女の子だった。
圭介は親しい相手に対して時々幼馴染の自慢話をする。性質が悪い事に無意識だ。その話を聞いた奴の1人が彼女自慢するなよと言ったが、あからさまなくらい顔を真っ赤にして、彼女じゃないとどもりながら否定する姿に、その場に居た全員が同じ結論――山口圭介片思い中――に達した。こう言っちゃなんだが、圭介はチーム内でもモテる部類に入る。そんな男がべた褒めのべた惚れである。気にならない訳が無い。
誰が最初に言い出したのは忘れたが、気が付けば夏休みに圭介の幼馴染を見に行こうツアーの話が決まっていた。勿論、圭介に内緒で。あれだけ自慢されたら気になる?だよなー。俺達も気になって写メかプリクラ見せろって言ったんだけど、あいつ、頑として拒否するからさ。もう直接見に行こうって話になったんだよ。まさか1年後に平馬が単騎突撃をかけるとは思わなかったよ。
圭介のチームメイトと言っても、流石に突然大勢で押し掛ける訳にも行かず、運良く会えたら良い程度だったんだ。最初は。ただ本当に俺達は運が良いみたいで、もうじき圭介の家が見えて来ると言う所でさんを連れた圭介とばったり会った。え?見た最初の印象?予想とちょっと違った。いや、何かこう女の子女の子した子って言うのか?ピンクとか似合いそうで、可愛い小物を身につけた子。そうそう、ちょっと低身長で。うん、目がパッチリした子。あ?俺の好きなタイプまんまだって?悪いか。圭介がべた惚れだから相当可愛い子だと思ったんだよ。だから想像した時に自分の好みが混じったんだと思う。あ、さんが可愛くない訳ではなくて、可愛いって思う前に綺麗だと思う人なんだ。話して見て、圭介が惚れるのもわかる気がする人だったよ。俺はどうかって?そうだな。圭介の幼馴染じゃなかったら惚れてたかもしれないな。別に幼馴染でも惚れて良いんじゃないか?って。あー、何ていうか、揃って並んでいるのを見てるとお似合い過ぎて、そういう気が沸かないんだ。揃っているのが当たり前のような、ほら、ペアカップとかペアウォッチとかあるだろ。最初からお揃いで作られたかのような、あ、そうそう、雛人形みたいなんだよ。他の人形が隣に並ぶと凄い違和感を感じるんだよ。そんな2人なんだよ。あー、流石にこの説明じゃわからないよな?え?わかる?あ、平馬は1度会って話をしているからか。
そんな圭介大絶賛なさんを、東海選抜のメンバーは諸手を挙げて迎え入れた。さんは俺達があれだけ好き放題挙げたマネージャーの条件を余裕で満たしていた。あの綺麗な顔に浮ぶ笑顔を潤いにしている奴らは多く、昔はあの圭介のサッカーの相手になるくらいなので知識も技能もある。マネージャー業務は初めてと言うが、学校で生徒会長をやっていたらしく、覚えも仕事も早い。文句の付けようのないマネージャーだった。
・・・のだが、意外な所から文句が出た。
学校が終わってから選抜の練習がある日もあり、暗い中帰らせるのが心配・・・と言う口実で一緒に帰ろうと誘おうと1度は考えた奴がチームメイトの中にも結構居た。しかし、残念ながらその手は使えない。なんたって彼女は圭介の幼馴染にしてお隣さんだ。しかも同じ学校なので、一緒に行こうと言う手も使えない。さんの安全はこうして保障された。
他の奴らの希望は絶たれたが。
「行きは圭介が一緒で、会ったら会ったですぐ練習。帰りも圭介が一緒だからガード固くて落とせねぇ」
そんな愚痴を何度耳にした事か。だが、話はこれで終わらない。
まだ、付き合ってないけど。
えっと、付き合ってませんよ。
時々、甘い雰囲気を醸し出す癖に、この2人まだ付き合っていないのだ。さんは少し目元を赤くして。圭介は何かあったのか、以前のように慌てずに『まだ』と強調して言うのだ。いっそトドメを刺してくれ。1%でも可能性があると諦めがつかねぇ。そう男泣きした奴が何人居た事か。うんうん、わかるぞ。綺麗で気配りが出来て、悩み事とか聞いてくれるから自分に気があるんだって思ってしまうんだよな。わかるぞ。わかるけど、あの子は圭介しかそう言う目で見て無いからな。あ?なんでわかるって?恋は盲目って言うだろ。だから俺には見えてるんだよ。
あー、圭介。さっさとあの子とくっついてくれ。あの子、マネージャーとしては優秀だけど、男心に傷を負わせてるから。そんな言葉を圭介に言える筈が無く、今日も今日とて俺は愚痴に付き合わされるのだった。
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色違いは平馬との会話分です。