SIDE
気がつけば代表合宿も最終日。午前中、最後の紅白戦をやった後、選考会議の後に合格者の発表とは聞いていた。
(これは酷い)
思った以上の悪条件に思わず俺は顔を顰めた。
特化型では無く、バランス型の選手が多く、実力があって自信もあるせいか、チームワークに関して言えば非常に悪い。これが所属するチームならまた話は違ったかもしれないが、自らを積極的にアピールをする選考合宿ので、そんな物は二の次かもしれない。能力の高さがそのまま自信に繋がっているのだろう。自然と周囲を見る目がおざなりになり、かなり自分勝手なプレイが目立つ選手が多かった。
(FW陣が足の引っ張り合いを始めたか。1番の敵が味方と言うのは皮肉だよね。選考合宿だから自分の力をアピールするのは当然だけど、チームにどこまで貢献出来るかって事も大事なんだけどね)
最悪と言って良い状況下で、目を引くのは同じクラスの山口だ。あれだけの技巧を持ちながらも、自分勝手に動く選手達の動きを把握した上でボールを回すのは流石だろう。山口の今の動きは地味と言って良い。周りがあまりにも協調性が無さ過ぎるので、中央に立つ山口がフォロやアシストに専念せざる得ない状況だ。そんな山口を見てほくそ笑む選手も中にいる。自己アピールが出来てない。そう思っているのだろう。だが、その動きの良さは見る人が見ればわかる物。自分勝手なプレイを続ける選手よりもその評価は高い筈だ。選手数200人の強豪、武蔵森の選手達の方がその辺を余程理解しているに違いない。しばらく様子見で動いていた武蔵森司令塔の三上が秀二くんとアイコンタクトを交わした後、山口の動きをフォロするように動き始めた。山口、三上、秀二くんの動きが組み合わさり、それに横山が加わって全体を動かす歯車へと変わった。自然とFWにボールが通るようになり、選手の動きも良くなって行く。自分勝手な動きをしていた選手達もその能力の高さ故に、山口の働きによって状況が一変したのに気付いたのだろう。悔しそうに歯を食い縛る姿に好い気味だと思ってしまうのは、俺が山口寄りな人間だった事もあるかもしれないが、個々の能力の高さを誇る選手達と県大会で何度も当たり、その度にチームメイトの能力の低さを嫌味ったらしく言われたせいかもしれない。
「」
「うん。そろそろ動く?」
「ああ。ライン統制はお前に任せて良いか?」
「良いの?俺に任せて」
「ああ、俺はどちらかと言うとマンマークの方が得意なんだ」
「了解。じゃあ、こっちは任せて。笠井もそれで良い?」
「はい。俺、スイーパータイプなので」
「わかった。よろしくね」
3-4-3の陣形。FWの動きが先程とは見違える程に良くなったが、誰1人としてアシストに回る気が無いのでMF陣に比べればやはり酷いの一言に尽きる。一方のMF陣はセンターに山口と三上。右サイドに秀二くん、左に横山が入っていて、お互いがお互いの仕事を意識して行っているので、FWの酷さを補うに十二分の仕事をしている。DFは俺と笠井と小田。東海のDFの中では小田は頭1つ抜けている。思考も柔軟で、知名度の低い俺や笠井の実力を軽視しないのでやりやすい相手だ。
「さっそく来ましたか」
ボールを持って駆け上がる敵FWの姿に俺は両サイドにいるDF2人にアイコンタクトを送った。慣れた動きで2人はさり気無く動く。そしてオフサイドを告げる笛。
オフサイドトラップ。ライン統制を得意とする俺の十八番だ。最も自分1人で出来る物ではない。
組んだ相手次第ではまったく出来ない。FW陣のようなタイプの人間とでは絶対に出来ないだろう。この場合、俺の動きに笠井と小田が合わせてくれたから出来ただけだ。感謝を込めて視線を送れば、小田は良い仕事をしたとサムズアップを、笠井は照れ臭そうに笑い返した。
この2人となら東海選抜に選ばれても楽しそうだ。そう思って忍び笑いを1つ漏らせば、視界内に楽しそうにプレイする秀二くんの姿を見つけた。