SIDE 山口圭介

選考合宿最終日。午前中に最後の紅白戦を終えたが、これがまた性格が悪い。選手の交代は無制限。選手交代された選手が合格・・・と言うのは後からわかった話だが、それでも真っ先に選ばれたので心臓に大変よろしくなかった。選手交代を言い渡された時に横に居た三上が「心配するな。合格だから」と小声で言ってくれなかったら、本当茫然自失していたかもしれない。


(三上、本当、良い奴!でも、何で知っていたんだ?)


まさか東京選抜合宿にも三上が選ばれ、そこで落選してるとは思わない俺はただ首を傾げるだけだった。




まず最初に俺が呼ばれた。その次に三上が呼ばれたのは、この纏まりの無いチームを何とか立て直そうと俺が動いた時に真っ先に呼応してくれたからではないかと思う。俺と三上が抜けて再びチームが纏まりを無くすのかと思ったのだが、左右のサイドに入っていた中西と平馬がセンターに自主的に入り、(ポジションに関しては選手に一任されていて、FW陣が誰がセンターになるか揉めていて見ているだけでうんざりした)DF陣はが中心に纏まり、DF−MFのラインを見事に作り上げていた。折角DFがカットし、MFが回したパスをFW陣は見事に決められずにいて、溜息が出そうだったが、それをぶち破ったのがだった。県大会に何度か応援に行った際には終始守備に徹していたが、前線に駆け上がった。その光景にゾクリと肌が粟立つ。


リベロだ。


呼応するように今までのFWの失態に静かに腹を立てていた中西と平馬が動き、そこからは達3人の独壇場だった。


味方FWに完全に見切りを付けたらしく、完全に無視してゴールに駆け上がって行く。この3人は誰1人として同じ所属チームではないのに、そんな事を感じさせないチームワークだった。特に中西との相性は抜群だ。ノータイムで動いている時もあるので、おそらくアイコンタクト無しでも意思疎通が出来るのだろう。平馬や千裕とは仲が良いが、俺にはあそこまで相性の良い相手は居ない。それが堪らなく羨ましく感じながら眺めていれば、中西のパスをがスルーして後ろに居た平馬がゴールネットを揺らすのが見えた。


やり遂げた顔でハイタッチを交わす3人だが、完全に無視されたFW陣がやって来て真っ先に動いたのユニフォームを乱暴に掴んだ。須釜と似た雰囲気を持つ中西が掴んだその手を振り払う。今までの余裕綽々な態度を捨て去り、凶悪な雰囲気を讃えての前に立つ中西。その空気呑まれてFW陣はおろか、近くに居た選手の殆どが怯んだ。あの平馬ですらその豹変に驚いたように瞬きを繰り返し、は肩を竦めて事態の行方を静観していた。


その後、監督が仲裁に入り、今まで良い所まったく無しのFW陣3人に交代を言い渡した。合格な筈がない。この時点での落選が決まり、3人は肩を落としてフィールドから去った。


一方、ゴールを決めた3人も交代が言い渡された。こちらは合格だが、中西が未だに不完全燃焼を繰り返しているかのような不機嫌さだったので、が監督に断った上で中西の手を引いてどこかへと行った。


「大丈夫か、アイツ」


俺の隣に居た三上が達を見てぽつりと呟く。


なら大丈夫だと思うけど」
「いや、そっちじゃなくて、中西」


苦虫を潰したような顔で三上が言う。


「あいつがあそこまで変わるの初めて見たからな」
「ふーん。ま、大丈夫じゃねぇの?」
「随分あっさり言うよな」
「いや、がついているからさ」


ぶっちゃけ、あいつに任せれば大抵の事はどうにかなるんだわ。そう言えば三上は心底呆れた顔をした後、苦笑いを浮かべて「それなら大丈夫か」と呟いた。その言葉通り、20分もすれば三上の言う『いつも通り』の中西を連れたが戻って来た。