に推薦入試の話をしてから、俺の生活に試験勉強の時間という物が追加された。スポーツ推薦ならほぼ確実に合格出来る。そう担任は力強く言ったのだが、合格する代わりに俺は高校のサッカー部に入らなければならない。ジュニアユースからユースチームに昇格が決まっていた俺は、その時点でスポーツ推薦は諦めた。そうなると一般推薦なのだが、俺の成績では普通に受験した所で合格ラインギリギリの所に居るのだ。かなり、いや、大分難しい。担任の「今から頑張れば」から始まる励ましの言葉を飲み込んで、俺は「推薦と一般受験で行きます」と気が付いたら答えていた。


推薦を受けると決めた翌日、にその事を話した。は話を聞くや否や、「推薦で決めちゃいましょう。私も手伝うから」と笑顔で宣言してくれた。家族ぐるみの付き合いである俺達は、お互いの家を自由に行き来出来る間柄にある。ユースの練習が終わって俺が家に帰ると、リビングには父さんと母さん、そしてが「お帰り」と言ってくれる。それが嬉しくもあり、これから勉強しなければいけない事を考えると少し憂鬱で複雑な心境だった。


食事を手早く済ませ、俺の部屋に2人移動。大体その頃には20時を回っていて、そこから勉強。1時間置きに休憩して、俺の疲労状況次第で時間は変わるけれど、大体22時か23時に終了。そんな毎日が続く事1ヶ月。担任から手渡された小さな紙切れが、俺の頑張りが如実に現れている事を示していた。


山口圭介 クラス順位4位 学年順位 13位


担任にどんなマジックを使ったか聞かれました。こんにちわ、山口圭介です。本当嬉しいです。


「この調子で行けば推薦合格も夢じゃないな」と言う担任の言葉に最初浮かれ、しばらくしてから前の成績じゃ夢だったのかと、冷静に考え直してしまった。だけど。


「最近頑張ってた山口君、テストの結果はどうだった?」


ひょこっと相変わらずの神出鬼没さで現れたに、俺は手のひらにあった小さな紙切れ、基、テスト結果をに見せる。俺の順位が大体どの辺にあるのか知っているは、目を丸くして結果を見入るように見た後、「頑張ったね」と笑顔で讃えてくれた。「おう!」と俺も笑顔で返す。


「俺の見たからお前のも見せろ」


と、から結果の紙切れを奪って目を通す。


 クラス順位2位 学年順位2位 総合得点492点


「・・・何、この数字?」


「5教科で8点しか間違って無いの?」とわかり切った事を口にすれば、「俺がクラス順位2位って事は1位もこのクラスの人なんだけど」と暗にもっと凄いのが居るぞとは匂わせるように言った。


「圭介、結果どうだった?」


その目的の人物は俺が呼ぶ前にこちらにやって来た。にっと笑った後、俺の結果をの手に押し付け、押し付けた手での手に握られたの結果を奪い取る。


「あっ・・・もう・・・」


してやられたと言う表情の後、少し呆れ顔になったに笑って許して貰い、俺の手の中にある奪った時に丸まった小さな紙切れを引き伸ばして見た。


 クラス順位1位 学年順位1位 総合得点493点


が頭が良いのは知っていた。が頭が良い事も知っていた。しかし、まさかここまで凄いとは。俺の葛藤など知る筈の無い2人は、いつものように


「あー、今回はさんに負けちゃったね」
「今回は勝ったけど、危なかった・・・」


と、お互いの健闘を讃え合うような言葉を掛け合っていた。俺はその会話に混じれない。


「なあ、
「何?」
「お前、志望校どこ?」
「磐田第一」
「お前も磐一なら、俺、何が何でも合格しないとな!」


だけど、こうして高校でも3人笑っていられるように、俺はサッカーは勿論勉強も頑張ろうなんて、柄にも無い事を思ったのだった。




「成績アップおめでとう。祝いに何かしてあげるよ?」


帰り道、にそう言われたのが1番嬉しくて、して欲しい事が色々思い付いたけれど


「たまには息抜きに出かけようぜ。俺、来週の土日練習無いから」


と、出かける約束を取り付けたのだった。