が珍しく落ち着かない様子だったので、視線の先を見ると、そこには居眠り中の山口君。保健体育の時間。普段は真面目に聞いているのに、どうしたのだろう?・・・あ、確か昨日まで海外遠征って言っていた気がする。その辺は先生もわかっているのだろう。普段なら容赦なく叩き起こすキクちゃん(担任)も見て見ぬ振りをしているのは、ひとえに山口君の人徳が成せる技なのかもしれない。腕を枕にし、気持ち良さそうな顔で寝ている。きっと良い夢でも見てるのだろう。笑っているようにも見えた。山口君の隣の席の水谷さんが、顔を赤らめて観察している。


「んー、ちゃん」


決して小さくない山口君の呟きに、はおろか、クラスメイト、果てはキクちゃんまで凍りついた。


ちゃん、ちゃん」


幼い口調での名前を連呼する。色々と居た堪れなくなったは、教科書で顔を隠し、机に倒れ込んだ。


そして


ちゃん、好きー」


にへらと子供が笑うように、山口君は眠ったままにも関わらず笑うと、そう言った。おお!と教室中がどよめく。そんな中、の隣の席の君が同情の眼差しを送っているのが見えた。


「穴があったら入りたい」


机に倒れ込んだまま、が小さくそう呟いた。そんなを見て、キクちゃんは溜息を吐くと持っていた自分の教科書を丸め、山口君を叩いた。目覚めさせるのが狙いなので、軽く叩いただけである(キクちゃんが本気で叩いたら、教科書と言えど凶器と化す)山口君が起き上がる。うーん?と言って周囲を見る。


「おはよう、山口」
「あ、おはようございます・・・。あ、すいません」
「後でにも謝っておけよ」


キクちゃんの言葉に意味がわからず「はぁ・・・」と頷いた山口君。授業終了後、状況を余り飲み込めていない山口君が、説明を求めようとの席に行くと、は顔を真っ赤にしたままどこかに走って行ってしまった。置き去りにされた山口君。訳もわからず、無視されたショックで呆然としていた。それを見るに見かねた君が、ポンと山口君の肩を叩くと、溜息を1つ吐いて説明するのだった。徐々に顔色が悪くなる山口君。


「・・・マジで?」


と信じられないように呟くが、頷く君を見て、


「とりあえず謝って来る」


と、教室を後にした。





「居眠りだけはもうしねぇ」


に謝り通しの山口君は、ようやくに許して貰った時、そう言ったと言う。







視点)