その赤を私はただ見つめる事しか出来なかった。




日曜日の朝、体に異変を感じて確認すると、保健体育の時間で習った通り、その印は付いていた。恐る恐る階段を降りて、お母さんを呼ぶ。エプロン姿で台所に立つお母さんに事情を話せば、お母さんはニコニコと笑顔を浮かべて頭を撫でてくれた。

「お祝いしなきゃね」
「お祝いするの?」
「そうよ」
「別にしなくても良いよ」
ちゃんが大人になったって事なんだから、お祝いしなきゃ!」

お母さんはそう言うと何かを取りに家の奥に行ってしまった。しばらくして戻って来たお母さんの手には、この間、女子だけ集めた教室で担任の女の先生が見せてくれた物。薄い袋に入った折り畳みの小さなソレ。先生はナプキンって呼んでいた物をお母さんは私の手のひらに乗せた。

「使い方はわかる?」
「この間、学校の先生が教えてくれた」
「じゃあ、使ってみて」
「うん」

「わからない事があったら母さんに聞くのよ」と言うお母さんに頷き、トイレに向かう。手にした小さな袋の存在を感じる度、私の心は沈んでいった。






初めてだったので時間は掛かってしまったけれど、問題なく使う事が出来た。今朝から体がだるく重い。リビングに入ってソファーに腰掛けると、腰も痛くて思わず溜息を吐いてしまった。

ちゃん、痛い?」
「腰とお腹が少しだけだるい」
「薬飲む?」
「先生は癖になるから、痛みが酷い時や我慢出来ない時以外、飲まないようにした方が良いって言ってた」
「そう。それなら酷くなったら飲もうね」
「うん」

私が頷くと、お母さんは台所でまた作業に戻った。「何を作ってるの?」と聞くと、上機嫌で「赤飯よ」と返って来た。私が大人になったのがお母さんは嬉しいみたいだ。私はちっとも嬉しくないのに。






、遊ぼうぜ!」

ドタドタと足音を鳴らして、脇にサッカーボールを抱えた圭介が現れた。フルフルと首を振ると、「どうかしたのか?」と聞いて来た。

「具合悪いから今日は無理」
「風邪でもひいたのか?」
「・・・うん」

本当の理由なんて言えないから風邪だと誤魔化すと、コツンと私のおでこに圭介は自分のおでこをくっつけた。

「あったかい」
「冷たい。お前、寝てた方が良いんじゃないのか?」
「ううん。大丈夫。ここで静かにしてるから」

腰にクッションを挟み楽な姿勢で居ると、圭介は来た時と同じように足音を鳴らして帰って行った。きっと他の友達の所に行ったんだろう。そう思うと寂しくて、置いて行かれたような気がして、何でこんな印なんて現れちゃったんだろうって思った。大人になったら圭介とサッカー出来なくなるから、大人になんてなりたくなかったのに。どうせなら男の子に生まれたかった。そしたら圭介とずっとサッカー出来るから。ずっとずっと圭介と一緒に居られるから。お母さんに言ったら、きっと泣いちゃうから言わないけれど。






私は女の子だから圭介とはいつかお別れしなきゃいけないんだ。






「これならお前も出来るだろ」
「うん」
「じゃあ、遊ぼう!」

そんな事を考えていたから、ゲーム機を持ってまた遊びに来てくれた圭介が嬉しかった。






「・・・お前、パズルゲーム、本当上手いよな」
「格闘ゲームでは圭介に負けるけどね」
「お前、あれ、下手じゃん」
「苦手なんだもん、急いでコマンド入れるの」
「あ、負けた。もう1回」
「うん」
「次は勝つ!」

女の子だからずっと一緒にいれないけど、後もうちょっとだけ一緒に居てね。圭介。






(言い訳)
圭介&ヒロイン小学4〜5年生イメージで書きました。
2人の関係に関してはヒロインはネガティブ、圭介はポジティブ思考。