正解を言ったつもりなのに、そいつは「違うよ」と言った。



この前、初めて男子と女子で別々に授業をやった。それ以来、女子がコソコソと恥ずかしそうに内緒話をする回数が増えた。それに伴って男子から繰り返し同じ質問が来るようになった。

「圭介、お前、セイリって知ってる?」

最初に聞かれた時、「俺は知ってる」と答えた。すると聞いて来たそいつは「何の事か説明してよ」と言うので「整理整頓の事だろ?」と言うと、待ち望んでいた答えに巡り合ったのか、そいつは物凄く嬉しそうな顔で「違うよ」と言った。




小学校に入学した時は、男子も女子も関係無く体育をしていたのに、気が付けば男子と女子に振り分けられるようになっていた。俺よりも足が速かった女子も、背の高い女子もいたのに、気が付けば足も背も抜いていた。それでもあまり気にしなかったのは、生まれた時からずっと傍に居たのせいだと思う。あいつは女子の中でもずば抜けて足が速くて、クラスの大半の男子よりも背が高かった。俺よりはちょこっとだけ小さかったけど、サッカーが上手くて、俺と同じくらいのレベルなのは学校であいつだけだった。




クラスの女子に告白されるようになったのもこの頃からだと思う。好きだから付き合ってって言われても、俺には正直わからない。付き合うとデートしなきゃいけないらしい。好きな所に遊びに行ったり好きな事をして遊ぶみたいだけど、俺が好きな所はサッカーが出来る所で、好きな事はサッカーだから、告白して来た女の子達とサッカーするよりも、サッカーが上手いとサッカーしてた方が楽しい。だから全部断ってた。





流行っているのか、あまりにも周囲がしつこく俺に聞いて来るので、ある日俺は母さんに「女の子のセイリって何?」と聞いてみた。母さんはぎょっとした顔で「誰から聞いたの?」と聞いて来たので、事情を説明すると少しだけ呆れた顔になって「年頃だもんね」と呟いた。母さんが言うには生理と言うのは、女の子が大人になると起こる事らしい。

「じゃあ、もなるの?」
「そりゃあ、ちゃんもなるわよ」
も大変だなぁ」
「そうよ。ちゃんは将来子供を産む為に頑張らなきゃいけないの」
「そうなんだ」
「だから圭介、しっかりちゃん守ってやりなさいね」
「でも、母さん。は武道習ってるから俺より強いよ」

そう言うと母さんは「そのうちわかるわよ」と言った。そのうちっていつだろう。俺は首を傾げるしかなかった。




流行も収まり、母さんとの会話も忘れ掛けた頃。天気の良い休日、をサッカーに誘う為に家に行けば、は少し疲れた顔でソファーに寄りかかっていた。遊ぼうと言うと、フルフルと首を振る。風邪かと聞けば、少し黙った後に頷いた。おでこをくっつけてみれば、ひんやりと冷たい。寝てろと言えば、大丈夫と言って静かにソファーに寄りかかってぼんやりとしていた。サッカーはとじゃないと面白くないし、でもは具合が悪いし。どうしようかと考えながらを見ると、はいつもより弱く見えて、母さんが言ったあの言葉が頭に浮かんだ。




くるりと方向転換して一回家に戻る。サッカーボールを部屋に置いて、代わりにテレビに繋ぎっ放しのゲーム機のコードを外し、ゲームソフトとコントローラー2個と一緒に鞄に詰めた。急ぎ足で階段を降りたら、「静かに降りなさい」と母さんに怒られた。

「鞄持ってどこに行くの?」
の家」
「サッカーで遊ぶんじゃないの?」
、具合悪そうにしてたからゲーム持って行く」
「具合悪いのに持って行ってどうするのよ?」
「だって母さん言ったじゃん。を守れって。弱ってたよ、。何かあったら守んなきゃいけないから、の家でゲームしながら様子見てる」

そういうと母さんは笑顔で俺の頭を撫でると、この前、兵庫の伯父さんのお土産のクッキー缶を渡して俺を送り出した。





寂しそうな顔。俺を見ると嬉しそうに笑った。それが嬉しかった。






「やっぱりお前、ぷよぷよ選ぶか」
「だって格闘ゲームじゃ圭介に勝てないもん」
「俺、ぷよぷよだとお前にたまにしか勝てないから、今日は頑張るぞ」





何でおばさんが赤飯炊いているかわかんないけど、俺、お前と居ると楽しいよ、






(言い訳)

圭介&ヒロイン、小学4〜5年生。
圭介はわかっているようでわかってないのが良い。