その話題が出たのは、関東選抜との練習試合を終えた帰りのバスの中である。


帰り道、バスの中で今日の試合の反省を監督が述べた後、各々口々に試合について話し合い、須釜のゾーンディフェンスは相変わらずウザイだの、須釜はまた身長が伸びただの、須釜はそのうちキリンになるだの、須釜の頭皮って実はやばいんじゃないの?だの、(ちなみにその発言をした四宮は坂藤に聞かれたらどうする!と言われ急いで口を覆った)(別にこのバスにスガは乗っていないが、・・・まぁそんなイメージを持たれている)(俺の携帯にスガから着信が入った時、すげぇ驚いたけど)(四宮なんか真っ青で坂藤が切れ切れって煩かったけど切ったら切ったで後々煩いから出る事にした)(電話の内容は至って普通だった)(最後に西宮に代われって言われた時俺も相当恐怖を感じたけどな)(西宮は迷った末、電話口に出て、その後、魂が抜け落ちた)話題の大半が須釜で、しかも後半からサッカーと関係ない話になり、話は徐々に脱線して行った頃、目下彼女募集中と公言中の時田(俺のクラスの副委員長とは無関係)が思い出したようにポツリと呟いた。


「そういえば関東選抜のマネ、可愛かったよな」


その発言にマネージャーと言う単語が口々に上がる。


試合に勝ったせいもあって気分が高揚しているのも手伝って、今度は関東のマネージャーについて話が盛り上がり、気が付けば東海選抜もマネージャーが欲しいと言う話にまでなっていた。


(俺と千裕は顔を見合わせて苦笑いをし、体力が比較的無い部類とされる横山とは半分寝ていた)


「監督ー」
「何だ、時田?」


今までバスの後ろでかわされていた話はばっちり聞こえていたのだろう。面白そうに薄く笑う監督に対し、時田もにぱっと笑い返すと


「うちも可愛い女子マネ欲しいです!」


と己の欲望に忠実過ぎる意見を述べた。普段ならば「後でな」と適当な言葉でお茶を濁す監督だが、今日、関東選抜に女子マネージャーが付いていて(うちの監督と関東選抜の監督は高校時代に何度も大会でぶつかり因縁関係がある)会場の案内やこっちのチームのドリンクの自給などしてくれて(ちなみに関東選抜の長瀬の彼女らしい)監督も思う所があったらしい。いつになく真面目な口調で、


「どんな子が良いんだ?」


と、尋ねた。


可愛い子。(大半の意見)
サッカーが好きな子。(半数の意見)
マネージャーの業務が出来そうな子。(半数の意見)
ミーハーな子じゃなければ。(平馬の意見)(平馬は煩い子は苦手らしい)
ぶりっ子じゃなければ。(千裕の意見)(千裕はこの手の女の子が苦手らしい)


俺、山口圭介も周りから尋ねられたが、真っ先に浮かんだのはいつも一緒の幼馴染の顔。即座にその顔を掻き消すように首を振り考え直すものの、思い浮かばず、無難に


「サッカーが好きで世話好きな子」


と答えるに止まった。


監督が一通り聞いてから、(そんな都合が良い子が居るとは思わないが)引き受けてくれそうな子が居たら頼んで見なさい、と俺達に告げた。マネージャーの理想を口々に挙げていた奴らも、


「そんな子いねぇ」
「居たら頼んでる」
「むしろ彼女にしてる」
「言えてる」


と溜息と共に切なさを吐き出していた。


「ねぇ、山口」
「お、起きたか?」


目を瞑りながらも会話は聞いていたのだろう。は眠そうに伏せられた目を擦りながら小声で「俺、心当たりあるんだけど」と言った。


「マジ?あいつらの条件満たす女の子と知り合い?凄いな」
「何言ってるの。山口が1番親しいのに」


1番親しいの言葉に、先程掻き消した幼馴染のの顔が再び思い浮かんだ。


「あいつやるかな?」
「山口次第じゃない?」
「でも、あいつらに紹介するのもな」


俺は後ろの席を見る。マネージャーの条件の話から派生して、「こういう彼女が欲しい」と話し合うチームメイトの姿。どうやら後ろの奴らはマネージャーに該当する知り合いは皆無だったようだ。


「『お疲れ様、圭介』って言われてドリンク渡されるって良くない?」
「・・・良いかも」


思わず出た本音に口を押さえるがもう遅い。にっこりと笑うに溜息が出そうだった。


「まぁ、その代わり他の人にもドリンク手渡すだろうけどね」
「・・・お前、自分で言っておいて夢を壊すの止めろよな」
「何言ってるの。言わなかったら言わなかったで後で不機嫌になるくせに」
「・・・そうだけどな」


湧き上がった不満を飲みと向かい合えば、


「でも、練習中も一緒って事は山口のカッコイイ所見せれるよ」


と甘い誘惑の言葉と共に


「心配なら、俺と山口と小田と横山で見てれば良いんじゃない?」


と、最も危惧している選抜メンバーからを守る案まで出されては反対する理由も殆ど無く。


「帰ったら聞いて見る」


と俺はに言うのが精一杯だったのは言うまでもない。




「何でお前、そう協力的なんだよ」
「えー、早く進展して欲しいなーと」
「何でだからそう・・・」
「うーん。遠距離恋愛中だから?」
「・・・理由になってねぇよ、それ」