資料をテーブルに無造作に並べたまま、第3会議室の中に彼女は居た。どこにでもある事務用の椅子に腰掛け、何か作業をしていたのだろう。その途中で眠ってしまったらしく、自分の腕を枕代わりに机にうつ伏せになっていた。忙しく動いている彼女を幾度と無く目にして来たし、体調が悪いのか、今朝見た時には顔色があまり良くなかった。真面目な性格の彼女だからきっとかなり無理をしていたの違いない。


このままでは風邪をひいてしまうから。そんな言い訳1つ作らなければ、無防備に寝ている彼女の傍に寄る事すら出来ない。


手を伸ばせば届く距離まで近付いて、傍に丸めて置かれていたジャージを広げて眠る彼女の肩に掛けた。寝息が聞こえる程の距離。穏やかに繰り返されるソレにザワリと心が揺れて、締め付けられ痛み始める。


どうして俺じゃ無かったのだろう?


何万回繰り返し問い続けても答えなど出ない。出る筈も無いのに、繰り返し問い続けるのはこの胸が痛み続けるからだろうか。痛みは消えない。彼女の姿をこの目に映す時だけ痛みが消える。否、痛みに勝る幸福感に包まれてその瞬間だけ痛みを忘れる事が出来る。そして彼女とその隣に並ぶ彼の姿を捉えた瞬間、痛みは鮮やかに蘇るのだ。より強い痛みとして。


ああ、どうしてどうして。問う事すら叶わない。今までも、これからも。彼女が俺と共に歩む事は無い。ならばせめて。そうせめて・・・?


見下ろした先には露になった白い首筋。薄っすらと汗ばむそこは染み1つ無い。


その白を凝視した後、音を立てずに身を屈ませた。気付かないで欲しい。気付かれても良い。出来たら気付いて。どうか気付いて。



ゆっくりと変わる自分の心を半ば嘲笑いながら、俺はその首に牙を立てた。




こんな人気の無い所で無防備に寝てるのが悪いんだよ。