今回のハンター試験開催地に選ばれたのはビスカンテンと言う街だ。人口10万。街としての規模としては中規模だろう。街に着いた私はその足でネットカフェに入った。性能の良いパソコンの前で電脳ページを捲る。ネットで得た知識と先程得た言葉と。そして今までの推察を混ぜ合わせる。導き出された答えに頬杖を付いて考える。矛盾点はほぼ無い。
「これが答えか・・・」
僅かな板で仕切られた空間で液晶の明かりをぼんやりと眺めながら呟く。新たな事実はそれなりに衝撃的であったが、私の心は変わらない。予定通りに行く。
「1345号室」
「お客様、既にそのお席は満室でございます」
「そう。じゃあ、1442号室は空いている?」
「こちらは空席ですが、ダブルのお部屋ですがよろしいですか?」
「出来ればシングルが良いけど、14階でシングルは無いかな?」
「それでは1455号室をお取りします」
街の大きなホテルのカウンターがハンター試験の入口と言うのはなかなか良い発想だと思う。老若男女色んな人間が出入りしているし、客として入った受験生が部屋ではなく試験会場に移動しても不審には思わないだろう。合言葉をフロントの男に告げ、鍵を貰う。傍に控えていたベルボーイの案内でエレベーターに乗る。
「レストランは地下何階?」
「1階でございます」
「ふうん。・・・あ、これ、返すね」
先程カウンターで貰った鍵をベルボーイに渡す。特に驚いた様子も見せず、受け取ったベルボーイは恭しく頭を下げる。エレベーターは14階で止まった。ベルボーイの先導で廊下を歩く。
「こちらでございます」
1455と書かれたドア。ベルボーイがドアを開ければ、そこはエレベーターの中だった。
「ご武運を」
「ありがとう」
エレベーターの中に入れば、ボタンは1つ。閉のボタンを押せば、エレベーターはゆっくりと今度は下に降りて行った。
エレベーターを降りるとコンクリート剥き出しの大きな空間が広がっていた。奥にドアが1つ。
「さん」
「・・・マーメンさん」
奥からトコトコと近付いて来た知人の登場に少しばかり驚かされた。え?何でここで仕事してるの?と言うのが本音だ。
「誰もいないけど、早かったかな?」
「いえ、どうも今年の合言葉は難しいようで・・・」
入場開始時間から既に数時間経っているが、受験生らしき姿は無かった。怪訝に思い尋ねれば納得。去年受験者が四桁超えたので、今年は少し会場までの道程を難しくしたらしい。ハンター試験はプロハンターの中で一定以上の実績を残している者の推薦があれば、試験会場を教えて貰えるので私は苦労せずに来れたけれど。ちなみに私を推薦してくれたのは、兄弟子のモラウだ。身内に妙に甘い所がある彼にも既に弟子がいるのだが、2人とも男のせいか私に以前以上に甘くなった気がする。爺様やノヴは自力でナビを探せと言ったが、彼だけは時間の無駄だろと言って教えてくれたのだ。そんな訳でナビ無し直行で会場入りしたため、私の受験番号はめでたく1番になった。わざわざネットカフェで漫画を読んだ意味が無かったと言う事か。いや、ナルトは面白かった。最新刊が出たら是非読みたい。
「そう言えばマーメンさん、何で受付してるの?」
爺様のあの性格に参った?と聞けば、苦笑いを浮かべてマーメンさんは教えてくれた。どうやら彼は万が一の事態が発生した時、最高責任者である会長――爺様の連絡係らしい。ちなみに何故、彼にさん付けをして、ノヴとモラウにさん付けどころか敬語すら使っていないのは、偏に兄弟子達からの要望である。私が傲慢な性格でも敬語が使えない性格でもない、とだけ付け加えておく。
次の受験者が来るまでの間、マーメンさんに雑談相手になって貰っていたのだが、1時間程経ってようやくエレベーターが動く音が聞こえた。
「じゃ、また後でね」
「はい、さんも頑張って下さい」
試験関係者と受験者が仲良く話していれば要らぬ憶測を招く。ただでさえモラウの推薦を受けて1番早く着いてしまったのだ。次の相手が来る前にマーメンさんと離れ、部屋の奥へ移動する。こんな事なら荷物になっても何か本を持ってくるべきだったか。失敗したと少しだけ後悔して目を閉じ、軽く仮眠を取る事にした。