どこをどうすればどうなるのか良くわかっていた。手にしたナイフをほんの一振り、擦れ違い様に閃かせれば終わり。己が最も嫌悪する部類に入る男の喉はぱっくりと裂ける。噴き出す血飛沫が男の上等な衣服を染める。ドサリと毛足の長い絨毯に崩れ落ちる骸。それらを何の感慨も無く見つめていた暗殺者は、殺した証を見繕うと窓から音も無く消えて行った。


数日後、依頼主の元を訪れた暗殺者は、証と引き換えに報酬を受け取る。その額はギルカタールでも群を抜いて高額であったけれど、暗殺者である彼は眉一つ動かさずに受け取ると、依頼主の元を去った。


帰り道、彼は呟く。簡単すぎてつまらない、と。






眠らない街の中で最も眠らない場所と呼ばれる場所。そこは老若男女、金持ちも貧乏人も関係無い。悲喜交々の表情を浮かべる人々の中で、異国色の強い服に身を包むこの国では珍しい金色の髪の男は今日も一勝負打って出た。男の賭けた物は己の全財産。対する相手の賭けたものも己の全財産。互いに狂気の沙汰としか思えない掛け金だが、それだけどちらも己の腕には自信があった。


魔法など無粋とされた世界で、磨かれた完成度の高い技術は己の手札を鮮やかに変える。チップの数が金髪の男の優勢を示していた。その男が動く。晒したカードには最高の役が出来ていた。力無く崩れ落ちる対戦相手にすっかり興味を無くした男は、一瞥する事無く立ち上がる。後始末は部下に任せ、部屋に戻る。


自室のベットに倒れ込み、退屈さを言葉と供に吐き出す。簡単すぎてつまらねぇ、と。






街の中央にその酒場はある。落ち着いた雰囲気と洗練されたサービスが好評で、その値段設定の高さが客を選り分けていた。ゴロツキの類を寄せ付けず、女1人でも飲める安心さがある空間。そのバーカウンターの1つに座る女の横に男が2人、女を挟んでそれぞれ座っていた。


男達の好意に女は鈍かった。愚かにも彼らの好意を友情から来るものかと思っていた。しかし、男達はそんな彼女が好きだった。今日も今日とて男達は彼女に甘い言葉を囁く。


そして時に互いを牽制し実力行使に及ぼうとするのだが、その度に彼女の白い細い手で制せられる。何故彼らが争うのかまったくわからない彼女だが、自分が髪を撫でれば彼らが大人しくなる事を良く知っていた。髪を撫でられ、時に甘えさせて貰うだけで彼らは幸せだった。


簡単すぎてつまらない。


そう呟いた男2人は、この簡単に堕ちてくれそうのない彼女に夢中で、退屈しない夜を送っている。