自分で言うのも虚しい話だけど、私は『ふつう』とはかなり程遠い人間だ。一般社会に流通している言葉を用いれば、私は超能力者と呼ばれる。まぁ、あまり好きな言葉ではない。大体にして超って何よ。超って。確かに自然法則を無視した能力は持っているけどさ。一般常識はちゃんと持ってるんだからね。親や叔母さん達が比較的まともな人で、能力を制御出来る歳になるまで、あの手この手を使って私の能力の事を他所にばれないようにしてくれたからお陰で不気味がられる事無く、制御出来るようになった後は普通に小学校に通えたもの。本当、親と叔母さん夫妻には感謝している。
それから同世代では唯一私の能力を知る従兄にも。
目を覚ますとそこは廃墟だった。ぴちょんぴちょんと水音がする。どうやら天井から雨漏りしているようだった。体を起こせばソファーに眠らされていた事に気付いた。スカートが皺だらけにならなきゃ良いなぁなんて考えていたら、タイミングよく誘拐犯の皆さんが部屋に入って来た。
「気分はどうです?」
滅多にお目に掛かれない程の美形さんを筆頭に、男が3人入って来た。黒い制服には見覚えがある。黒曜中学。そんな名前だっただろうか。この前、一緒に従兄とご飯を食べた時に、そこを仕切っていたトップが急に変わったような話を聞いた覚えがある。
そうなると―――。
「貴方、私じゃなくて恭弥に用があるの?」
「クフフ、聡明な方で助かります」
?!
今、クフフって言ったよ!この人!!折角の美形なのに、マイナスポイントだよ!しかし、恭弥が来てくれるかなぁ。私の能力知ってるから自力で何とか出来るの知ってるだろうし。別に来なくても逃げるくらい頑張ればいけるとは思うけど、やっぱり来て欲しいんだよね。従妹としては。
「恭弥、来てくれると良いなぁ」
「来るでしょう。見たところ、大事な血縁者のようですし」
「もしかして恭弥の血縁者って理由で誘拐した?」
「ええ」
嘘を言ってるようには感じなかった。こういう時は『ふつう』じゃなくて良かったって思うんだよね。この街一帯を裏も表も仕切っている従兄なんて持つと、ぱっと見普通の女子中学生の私は格好の人質候補だろうし。
「ところで恭弥を呼びつけてどうするつもり?」
「クフフ、勿論、戦いますよ」
「3対1で?」
「そんな事する訳ないだろ」
「そうだピョン」
ピョン?!
何と言うか色々と楽しい日本語使う人たちだなぁ。クフフとかピョンとか言う人達初めて見たよ。やっぱりあれかな。類は友を呼ぶ、みたいな。
「んー。でも群れている時点で恭弥が問答無用で噛み殺しそうだなぁ」
昔は2人以上一緒にいるだけで噛み殺してたけど、恭弥も大人になって寛容になったのか、最近は2人一緒はスルーするようになったんだよね。3人以上だと相変わらず噛み殺す対象みたいだから、問答無用でこの3人は叩きのめしそうだけど・・・。
「悪いけど、恭弥と戦いたいなら横の2人をどこかお遣いにでも出して貰えない?」
「何、言ってるの?」
「嫌だピョン」
リーダーっぽい人に尋ねてみれば、彼が答える前に先に横の2人が答えた。その言葉を聞いて、リーダーっぽい人は「クフフ」と見下すように嘲笑する。どうやらお遣いに出す気も行く気も無さそうだ。
「それにしても、随分落ち着いてますね。普通、誘拐されたら泣き叫ぶものでしょう?」
「ま、手が掛からなくて楽ですけど」と言うクフフの彼だが、例え泣いても鬱陶しがる事はあっても慰めると言う事はしなさそうだ。何と言うか彼の眼差しには従兄である恭弥と通じる何かがあった。そこで私は初めて彼の目がオッドアイだと言う事に気付いた。薄暗いので気が付くのに時間が掛かったが、彼の両目は片方が赤でもう片方が青い。
「まぁ、伊達に恭弥の従妹やってないからねぇ」
伊達に恭弥も私の従兄をやってないの方が正しいのか?今度、聞いてみよう。そうしよう。
「それじゃあ、悪いけど横の2人には強制的にお遣いに出て貰うよ」
「は?」と綺麗に3人はもったと同時に私は自分の両腕を上に振り上げた。ふわりと横の2人が浮く。
「なっ!」
「何だピョン?!」
焦る2人を他所にクフフの彼だけは楽しそうだった。その証拠に「クフフフフフ」とフが3つも多い。
「お散歩にいってらっしゃい〜♪」
パチンと指を鳴らせば、空気が少しだけ歪む音と共に2人の姿は消え失せた。
「クフフ、君、超能力者でしたか?」
「せめてエスパーとかESP所持者とか言ってくれない?」
「その言葉、嫌いなんだ」と言えば、「ねぇ、超能力者さん」と彼は聞いて来た。良い性格をしてるよ、この人。
「千種と犬はどこにやりました?」
「20キロ先の海浜公園。どんなに早くても20分は帰って来れないよ」
「そうですか・・・」
キランと長い三つ又の槍を取り出すと、彼はその先を私に突きつけようとした。距離を取る為、後ろにテレポートする。ついでに浮かんでみた。
「そんな訳でお仲間は20分は確実に戻れないから、恭弥、後よろしく」
ギィと鉄のドアを足で蹴飛ばして現れたのは我が従兄様。並盛の旧制服の腕に今日も風紀の腕章が付けられていて、愛用のトンファーを手に華々しくご登場だ。
「了解。噛み殺しておくよ」
目的の人物に会えたクフフの彼は上機嫌で高らかに「クフフ、クフフフフ」と笑うと、槍の先を私から恭弥に向け直した。恭弥も戦闘モードに入り、トンファーを構える。
「、先に帰って」
「ん?見物してちゃ駄目?」
「帰ったらのカレーが食べたいから作っておいて」
「空腹は最大の調味料だからね。一杯運動して来るんだよ」
ソファーの横に置かれたバックを引き寄せて中身を確認。うん、財布も携帯も勉強道具も生徒手帳も無事だ。今時、生徒手帳を携帯する生徒なんてそういないだろうけど、並盛に関してはほぼ100%をキープしている。恭弥パワーの1つだ、これも。
「じゃあ、先に帰ります〜。あ、恭弥。カレー、中辛と辛口と激辛どれにする?」
「辛口」
「ハチミツとリンゴ入れて下さい」
「・・・・・」
「・・・・・」
クフフの彼からまさかのリクエストである。
家に来る気か?まさか来る気か?!うちの敷居をこんな誘拐犯に跨がせる気はないぞ!なんたって、うちの家で強いのは私だけだからな!お隣の恭弥の家族は皆鬼みたいに強いけど!
「恭弥」
「何?」
「連れて帰らないでね」
「きっちり噛み殺しておくから」
「よろしく」と言って私はさっさとテレポートで家に帰る事にした。そういえばいつ気絶させられたんだろう?クフフの彼の能力なのかしら、やっぱり。とりあえずこの気配は覚えたから、この気配を感じたら近寄らないようにしよう。
「それじゃあ、また後でね、恭弥。生きててももう会いたくないので遠くで幸せになって下さいね、クフフさん」
「クフ・・・僕の名前は六道骸です。また会いましょうね」
「全力でお断りします」
「さっさと帰りなよ、」
「そうする」
両手を広げてテレポートする。次の瞬間には見慣れた私の部屋だ。浮いたまま靴を脱ぎ、玄関に戻す。
さーて、運動してくる恭弥の為に美味しいカレーでも作りますか。
「こんばんわ、さん。カレー食べに来ました」
「・・・恭弥。クフフの人、先に家来ちゃったんだけど。しかもカレーのおかわり要求してるよ」
「・・・今、行く」
(あとがき)
クフフの彼は戦うのも飽きたのとお腹が空いたので、自分の分身の幻影を見せて先にヒロインの家に突撃しました。ようやく戻った千種と犬はアジトに居ない骸様に大慌て。