朝、家のドアを開けたら、玄関から門までのほんの数メートルの道に、みっちりと、それはそれはもうみっちりと、赤い薔薇で埋め尽くされていた。恐ろしい事に生花である。しかも切花。1本350円としても、総額いくら掛かったのだろう。考えるだけで勿体無いとシミジミ感じてしまう数だ。そう感じる私の左手には玄関先に置いてあったメッセージカードがあり、右手で携帯を操作する。いつ、どのタイミングでもコール数秒で取る辺り、彼の有能さにはいつも感心させられる。

「あ、もしもし、ロマーリオさん。です。薔薇のプレゼントありがとうございます。お礼の言葉の方は後でディーノさんに直接お電話する予定なのですが、ちょっとお願いがありまして、お電話させて頂きました。あ、いえ、大した事ではないんです。ちょっとお宅のボスに、それとなく伝えて欲しい事が。あ、はい、そうです。ええ、玄関から外に続く道が薔薇で封鎖されてまして。ぶっちゃけ、最初見た時、新手の嫌がらせかと思ったくらいで。いえ、お気持ちだけで充分なのですが、・・・・・・そうですね。大きな花束より小さな鉢植えの方が好きだと、それとなく伝えて頂ければ。すいません、貰い物にあれこれと。いえ、そちらもお仕事でしょうから。はい、わかりました。それでは、また。失礼します」

ピッと電話を切ると、目の前の赤の氾濫に思わず溜息が出た。あまりにも鮮やかな赤なので、ずっと見ていると目がチカチカする。恭弥関係だけでも歓迎出来ない客の訪問が多々あるのに、恭弥の両親も仕事柄かなり敵を作っているようで、毎晩日替わりで襲撃者がやって来る。そんな雲雀家は当然のごとく最新型のセキュリティシステムを導入しており、その余波を受けないよう、娘以外ごくごく普通の家も同じ物を導入しているのだが、見事にセキュリティセンサーの境目を見切った上で、我が家の前を薔薇で埋め尽くしたキャバッローネの人達は、そのスキルの使い道を激しく誤っているとしか思えなかった。




恭弥に見つかると面倒なので、薔薇はいつもの力で全て風呂場に移動した。やましい気持ちは無いけれど、恭弥に見つかると1から10まで説明しなきゃいけないから非常に面倒なのだ。普段は放任しているくせに、変な所で恭弥は過保護な所がある。この薔薇も見つかったら捨てられるだろう。毒があったらどうするの?とか言って。毒の有無くらい、私の力で簡単にわかるのに、恭弥と来たら私の力は信用してくれているのに、変な所で心配性なのだから。・・・ま、それだけあの恭弥に気に掛けて貰っている訳だから、嬉しいけれど、それはそれ、これはこれ。折角貰ったのだから、この薔薇は大事に、有効に使わせて貰う事にしよう。


それはある晴れた日の朝のこと







好きな女には定期的に貢ぐのがマフィア流だと良い。無駄にスキルの高いキャバッローネファミリーに乾杯。