並盛中学校、校内。日の明るい間は生徒達の明るい声で賑わう校内も、夜ともなればひっそりと静まり返り、不気味さすら漂う空間へと変わるのだが、この数日、校内は非常に賑やかだった。


辺りに充満する硝煙の匂い。時々血生臭い匂いが混じり合う。爆裂音をBGMに今日も今日とて彼らは踊る。古の時代から血と共に続く指輪の継承。何度目かわからない継承問題と、指輪争奪戦。その全てを取り仕切るのが、謎の組織、 チェルベッロ機関。褐色の肌と覆面の女性達。若干違いはあるものの、その態度は全て統一されており、薄気味悪さ、不気味さと言った印象しか感じられない。


そして向き合うのは半数が平穏な土地で生を受け、穏やかな日常を送って来た筈の少年少女達。対するは指輪と共に存続して来た闇の住民達。遠い地にその名を轟かせて来た集団、ボンゴレ。その中で最強と謳われた、裏の世界の更に裏の仕事に携わる暗殺集団。ヴァリアーと呼ばれる部隊に所属する中でも、選りすぐりの精鋭達が今日この地に立っていた。







最初に異変を感じたのはヴァリアー達だった。感じるには些か遅いとしか言わざる得なかった。彼らが第三の人物に気付いたのは、仲間の1人が後ろから襲撃を受け、地に激しく身を叩き付けられた時である。まったく何の気配も無かった。それでも彼らがその道のプロなのは、すぐに背後を確認した事だ。各々獲物を手に掛け、薄っすらと月明かりに照らされた襲撃者を見る。風に靡く肩まで伸ばされた黒い髪。指輪を持つツナヨシ一派の着る制服と似たデザインの服。顔の造詣は整っている方だろう。しかし、その顔には冷ややかな笑みのみを湛え、目は猛禽類のように研ぎ澄まされていた。ぺろり、と王冠をその頭に乗せたベルフェゴールが舌舐めずりをした。直後に少女に向かって一斉にナイフが襲い掛かった。完全回避不可能な程、辺り一帯隙間無くナイフの螺旋が走る。先程戦ったゴクデラのように、ナイフを弾かない限り回避出来ないだろう。血に染まる少女の姿にベルフェゴールは愉悦の笑みを浮かべるが、それは想像の中で留まった。何も無い空間をナイフが空しく走り、校舎の壁に無数に突き刺さった。


闇を切り取ったように突然消えた少女にボスであるザンザスと、右腕的存在で動体視力には自信のあるスクアーロの表情が硬く強張る。目で追えない上、気配すら感じ取れない。きょろきょろを目を首を動かす彼らに、ボス、ボス!とルッスーリアが彼らを呼び掛け、指を指す。指差した先には地に叩き付けられながらも、何とかよろめく体を起こすレヴィ・ア・タンと彼を冷ややかに見据える少女の姿。ザンザスは忌々しく眉を寄せた後、失態を犯した彼の名を呼んだ。


それ程大きな声では無かったが、レヴィにその言葉は届いた。敬愛するボスの前でまさかの失態。咎めるその眼差しに、恭しく頭を下げ、敵と見なした少女と向き合う。

「貴方がレヴィ・ア・タンで間違いないわよね?」
「ああ、そうだ」

答えると、少女の唇がにぃーっと弧を描いた。年こそまだ幼いが、妖艶な笑み。心がときめきそうになるものの、ボスへの忠誠心が上回った。内蔵した電気傘を宙に放つ。中身と外見が一致しないのはこの世界ではよくある話だ。アルコバレーノがまさにその筆頭だろう。レヴィの放った電気傘に気付きながらも、少女はじっとレヴィを見つめていた。

「ねぇ、何でランボをあそこまでボロボロにしたの?」
「あいつが俺の敵だからだ!」

言葉と共に雷が落ちた。古来では神々の槌とも言われた光は容赦無く少女を襲う。激しい雷鳴の音の後、周囲を包んだのは少女の悲鳴の筈だった。そう誰もが確信していた。

「うふふ、あはははははは」

高らかに響いたのは少女の笑い声だった。さながらそれは魔女の高笑いのようだった。その声とその姿にレヴィの心は恐怖で雁字搦めになったが、それは何も彼1人ではなかった。綱吉達もその光景に誰もが黙り、逸る心臓を押さえた。一方のヴァリアーもあまりの展開に息を呑む。唯一、綱吉とは別の場所で観戦していた雲雀が楽しそうに唇を歪ませた。その笑い方はとそっくりであった。


楽しそうに笑うは宙に浮かび、その手には先程放ったレヴィの最強威力の雷がバチバチと光っていた。

「知ってる?昔、大虐殺を命令した女帝がいたんだけど、その女帝本人は血を見ると倒れるような人だったんだって。ふふふ、笑わせるよね。想像力が足りない証拠だよ。自分の行いでどれだけ血が流れるのか想像した事無いんだよね。まぁ、何が言いたいかと言えば、敵だとしても何もあんな幼い子をあそこまでする必要なかったんじゃないかって事。綱吉くんが入らなかったら君、殺してたでしょう?」

何故それを、とレヴィは驚愕したが、その問いを口にする事は出来なかった。出来たとしても答えが返って来るとは思えない、と意識の中で理解しながら。

「貴方も殺し屋、あの子も殺し屋。邪魔なら殺しあうのが普通かもしれないけど・・・正直、私の目の前でやって欲しくないし、あの子は私の友達だから傷付けられたら腹も立つんだよね。そんな訳で私直々に噛み殺してあげるよ。まぁ、この一撃を耐えれたら許してあげるけど」

それじゃあ、頑張って。残酷に笑って少女、は手にした雷をレヴィ目掛けて落とした。断末魔が辺り一帯に響き渡る。


悲鳴が止み、光が収まった頃、はぴくりとも動かないレヴィの右腕を取った。僅かにだが、脈はある。次の瞬間、レヴィの体は消えた。何なの、重い!とルッスーリアが悲鳴を上げる。ザンザス達が横に目を動かせば、そこには瀕死の状態のレヴィがルッスーリアの腕の中に抱えられていた。晴の守護者であり、仲間の治療にも積極的なルッスーリアが慌てて応急処置を取る。興味なさそうにその姿を一瞥した後、ザンザスは眼下の少女を睨んだ。sensitivoという単語が彼の口から漏れる。


ふっとまたの姿がザンザスの視界から消えた。途端にグラウンドを挟んで反対側が騒がしくなる。綱吉達の目の前に少女はいつの間にか移動していた。かなりの高レベル能力者だぜぇと横でスクアーロが唸る。







「あ、綱吉くん。今から君のお父さん、ちょっと噛み殺して来るから」
「えぇぇぇぇ!!父さん、何やったの?」
「私に断られたからって、あんな小さな子に守護者やらせるなんてね・・・」
「ま、待って下さい!!ああああああ、消えちゃった!!」









ヒロインとランボは公園で知り合って以来、度々お喋りする間柄です。
弟がいなかったので弟のように思っていたのですが、レヴィにやられてかなりにご立腹。
ちなみにツナ父である家光は、9代目に化けた偽者にやられたため、まぁ、いいか、天罰は下ったっぽいし・・・とヒロインは噛み殺すのを止めました。