図書館のバイトを始めてから、何だか1日の感覚が以前よりも早く感じるような気がする。講義に出て、バイトして、バイトが終わったら友人とお茶して、日が暮れたら家に帰って。毎日がこの繰り返し。だけど心地よいと感じるのは、最近出来たちょっとした遊び心と友人のお陰だろうか。


今日の彼女はアメリカンショートヘア風、一昨日の彼女はヒマラヤン風。見ていて気がついたけれど、どの彼女も綺麗だったり可愛いかったり。グレードが高い。


この大学って美人さん多かったのね、と今日の彼女に目をやる。窓ガラスの向こう側で笑うアメショ風の彼女は、嬉しそうに彼の腕に自分の腕を回す。ああ、微笑ましい。ああいうの見ると自分も恋人がいたらなぁ・・・なんて思ってしまう程。普段は彼女の姿だけ見たら、そのまままたパソコンに視線を戻しているのだけど、今日はその微笑ましい光景に長く見過ぎた。


振り返った彼と目が合った。


じろっと一瞥される。視線が「見てるんじゃねぇよ」と言った気がした。


ごめん、と言う気持ちが伝わるように、苦笑いを浮かべると、一瞬驚いた顔をしてから、そのまま彼女に連れられて学生達の人の波に消えて行った。






「・・・・と、言うことがあったんですよ」
「睨まれたの?」
「ええ、もうバッチリ」
「怖くなかった?」
「いいえ」
「本当に?」
「本当ですよ。ああ、あの人ああいう顔だったんだって思って」
「ちょっと待って。もしかして伊達の旦那の顔知らなかった?」
「ええ。彼が来た時は真っ先に彼女さんの方を確認してましたから」
「威張って言わない!」


本を持って来た彼を声だけ判断した後、入り口の窓の向こうで待つ彼女の容貌を素早くチェック。そのまま貸出カードを受け取って、そのまま貸出・返却作業。終わって、カードを返却すれば、確かに彼の顔は見えていた筈なのだが・・・。考えて見れば、彼、伊達政宗の彼女の顔は何人も見た事があるが、彼自身の顔はまったく知らなかった。


見た事はあるのに知らなかったと言うのもおかしな話だ。文法的にも状況的にも、この場合、覚えてなかった、が一番正しい。


目の前でカフェオレを飲む佐助にしばしば指摘されていたが、自分は興味が無い物はまったく覚えない人間らしい。逆に興味を持った事は驚異的なスピードで覚えていくタイプらしいけれど・・・。


「伊達さん、結構な美丈夫さんでしたね」
「美丈夫ってまた古風な表現だねぇ。何?惚れちゃった?」
「いえ、まったく」
「まったくなの?」
「まったくです」
「あの顔に加え、頭も良いし、良い所の坊ちゃんらしいよ」
「性格にまったく触れられてない辺りが素敵ですね」
「あー、性格はまあそうだねぇ。でも、好条件の男だと俺様も思う訳」
「そんなに好条件なら、佐助付き合ってみれば?」
「何でそうなるの!」


ああ、もうこの子は!と頭を抱える振りをする佐助を見て、自然と笑みが毀れる。軽い冗談のつもりで言ってみたのだが、本気で嫌だったようだ。うげぇーと吐く振りをする所を見ると、うっかり想像したのかもしれない。


「ごめんごめん」
「冗談きっついよ、
「佐助がノリが良いから、ついね・・・」
「あーあ、俺様可哀想。迂闊にも想像しちゃったよ」
「佐助、破廉恥ですね〜」


佐助とのやり取りのどこかで、笑いのツボが刺激されたらしい。笑いが止まらない。あはは、と笑い声がいつものカフェテラスに響く。


人付き合いが得意なこの友人のお陰で、人付き合いがあまり得意では無い自分も笑う回数が増えた気がする。毎日が楽しい。


「佐助と一緒に話してると楽しいよ」


と一言。感謝の意を込めて。


するといつものように、あー、うー、と唸り始めて、先程とは違い、本当に痛そうに頭を抱えるのだ。


「大丈夫?佐助?頭痛酷い?」
「ああ、大丈夫、大丈夫」


本当に?
顔、赤いよ?
風邪?