図書館のバイトと言っても、時間は不定期だ。
大学が学生に出したバイトは、希望者の講義が無い時間帯という破格待遇だったが、如何せん自給が安すぎる(と佐助談)ため、希望者がなかなか来なかったらしい。大学も二年目で生活にも慣れた。そろそろバイトでもしようかな、と呟いた所、この話を佐助が持って来た。彼、曰く、はアルバイト初心者なんだから、これくらいから始めてみれば、との事。そういう佐助本人はアルバイトをいくつも掛け持っている。今まで経験したアルバイト内容を一度聞いたけれど、確実に商店街一個分に相当する位のバイトのプロだ。その彼が言うのだから間違いないだろう。そう思って始めてみたけれど、図書館のバイトはかなり私の性に合っていた。
今日は以前休講になった講義の振替が5時限目に入り、バイト終了は19時半とかなり遅めだ。いつもはこのバイトが終わった頃に現れる佐助も、居酒屋のバイトの時間の関係で今日は来ない。久しぶりに1人で帰宅。同じ学部学科コースに所属してる佐助と殆ど講義が一緒なので、行きも帰りも一緒の時が多い。さて、バスの時間は何時かなと、構内のバス停目指して歩き始めると、名前を呼ばれて振り返る。美人だったり可愛い子だったり、とにかく女性達が群れでやって来た。
「さん。話があるの、良いかしら?」
良いかしら、と断りを入れる割には断りを許さない語調。おそらく彼女達の代表者的存在か。断るのは無理か、と判断して、何でしょうか?と問いかける。すると意外な言葉が耳を掠めた。
「猿飛くんとは付き合ってるの?」
「はぁ?!」
その言葉は予想外だった。驚きのあまり間抜けな声が暗くなった構内に響く。彼女達もこの反応は予想外だったのか、えっ?!と向こう側からも驚きの言葉が漏れた。
「えっと、そういう風に見えるのかな?」
「私が見た限りだとそう見えるわね」
賢い人だ。団体様で押しかけて来たから、てっきり数の優位性で話を進めるのかと思ったら、『私』とあくまで自己判断を口にする。
「佐助は大学に入ってすぐ出来た友達だから、仲が良いとは思うけど、そういう間柄では無いですね」
そう言うと彼女達は安堵の表情を浮かべた。ああ、この人達は佐助の事が本当に好きなんだ。雄弁にその顔が語る。恥じらいとか喜びとか嬉しさとか、もう桃色がこれでもかってくらい詰まった表情していた。
こちらが取り乱す事無く、冷静に淡々と事実を語ったせいだろうか。こちらが呆気を取られる程、手短に彼女達は用を済ませると、謝罪と感謝の言葉を述べて去って行った。
「あ、バス」
思い出して、急ぎ足でバス停に向かうが、バスは15分前に最終便が出てしまっていた。徒歩で帰ればアパートまで1時間の距離。歩けない距離では無いが、先程から強く感じる空腹感が精神的に重く圧し掛かった。
途中何か買って帰ろうかと、鞄を背負い直して歩き始めると、軽くクラクションの音。友人は何人かいるものの、車所持者と言えば佐助くらいだ。その佐助もバイトに出ている上、車も彼の物とも違う。誰?その疑問を解く時間は与えられないようで、先程よりやや大きめに再度クラクションが鳴る。
ハイハイ、誰ですか?と顔を顰めて車に近付けば、窓ガラスの向こうに図書館の窓ガラス越しに良く見る彼を見た。
何故、伊達政宗氏が?