図書館の臨時アルバイト員のと、図書館の常連である伊達政宗には図書館以外に接点が無い。薬学部のと、話によると(と、言っても佐助情報)経営学部の政宗には今まで接点が無かった。最近、出来た接点も図書館で顔を合わすくらいなものだった筈だ。それくらい学食のおばちゃんですら出来るレベルの接点だった筈だ。


「何で私は車に乗ってるんでしょうね・・・」
「Ah?まだ言ってるのかよ」


ふっと息を吐いて、窓ガラスの向こうを見る。車の窓ガラスから見える夜景は綺麗だ。琥珀色のライトがキラキラと光る様は、ここを通る度に見惚れた物だが、生憎と今は夜景を眺める気分になれなかった。


結論から言えば、伊達政宗と言う男に脅され、車に乗せられ、今に至る。チワワやらプードルやらチャウチャウやら、それぞれ愛らしい女性達もこの車に乗ったのか。チラリと横目で隣を見れば、それはそれは端正な顔立ちの男がハンドルを握り、軽快に車を走らせる。確かに女性の心を捉えるには充分過ぎる物を持ち合わせた男なのかもしれない。客観的に見て、そう勝手に解釈する。


黄色から赤へ信号が変わる。ゆっくりと車が停車する。意外だ。てっきり無視するかと思ったのに。


「・・・あの」
「何だ?」
「いい加減、用件を切り出して貰えないでしょうか?」


用がある。車の窓を開けた向こう側からそう伝えられ、何でしょう?と問うものの、ここじゃ何だから移動しよう、と車の助手席を指差された。さすがに何か感じる物があり、丁重に固辞したつもりだった。だったのだが・・・。今、私は車に乗っている。


「もう少ししたら目的地に着く。そこで構わないか?」
「ちなみに目的地と言うのは?」
「創作日本料理の店」
「用がなければ財布にお金はあまり入れない主義なのですが」
「安心しな。俺が連れて来たんだ。奢るぜ」


持ち合わせはあまりありません。その言葉をスマートにかわし、懐の大きさを見せる辺りが慣れている。お腹は空いているし、徒歩で帰るには前以上に辛い距離になった。断る口実も思い浮かばないので、素直に従う事にした。


「まぁ、食事くらいなら付き合いますよ」


その言葉に男はニヤリと口角を上げて笑う。その笑い方に先程以上に、怪しさと言うか何と言うか表現出来ない何かを感じ取り、背筋が冷たく感じる。




ああ、父さん、母さん、そして最近飲み会で保護者役をしてくれる佐助さん、頑張って帰りますよ。