失礼に当たるのは承知の上だが、流石色んな人と(主に女性と)色んな所に来ているだけあって、連れて来て貰った店は文句の付け所が無かった。


洗練されたインテリア。カウンター席は開放感があり明るく、個室席は丁度良い広さで圧迫感を感じない。透明なガラスに青ガラスのラインが数本走った花瓶に目を奪われていると、くいっと手を引かれ、引かれるまま歩き始める。


奥の個室に案内され、中に入れば、そこは店の庭の見える部屋だった。季節の花々がひっそりと咲く。華美過ぎないその演出が好ましく感じた。


「さて、座ろうか」


勧められ、男の対面の席に膝を折る。ぴしっと背筋を伸ばして目の前の男を見遣れば、男、伊達政宗は頬杖をついてこちらを見ていた。


「お話はお食事の前にしますか、後にしますか?」
「後にしよう。それより自己紹介と行こうか?」
「薬学部2年、です」
「経営学部2年の伊達政宗だ。I'm pleased to meet you. 」
「・・・・・よろしく」


しばらくして部屋全体を静寂が包んだ。人見知りが激しい上、殆ど会話らしい会話をした事の無い相手と、会話で盛り上がれと言うのも酷な話である。とは言え、密室で2人無言と言うこの状況も耐えがたく、話題を探って見るが、これと言った話も思い浮かばず・・・。さて、どうしたものかと首を傾げると、察した政宗が助け舟とばかりに色々と話しかけ、私がそれに答える形になった。政宗の会話と言う名の尋問のお陰で、個人情報は駄々漏れだが、場の空気は何とか持ったのである。


の好きな学食メニューと言う、本人から見てもどうでも良い情報を政宗がゲットした頃。店員がコース料理の一品目を持ってくるまで、このやり取りは続いたのである。








徒競走で走っている時には感じないけれど、ゴールして足を止めた途端に感じる疲労感。50m分か、100m分か。はたまた思い切って400m分か。この精神的な疲労度を距離に表したらいくつになるんだろう。そんな心底どうでも良い事を考えながら、コース料理の一品目を口にする。質問攻めにあっていた時には感じなかったのに、解放された今になって感じる疲労感。その度合いから見て、自分はかなり緊張してるんだなと自覚する。沸いて来る溜息を二品目の汁物と一緒に飲み込んだ。


は・・・」
「・・・はい?」
「こういうところは苦手か?」
「苦手では無いのですが・・・・その・・・誰かと2人きりで出かけた事が殆ど無いので」


緊張してます、と付け加える。すると対面の男は、そうか、と呟いて、安堵した表情になった。