「何やってるの!」
上田城に響くオカンの声に私はまたかと呟いた。
発信源と思わしき場所に足を運べば、案の定、いつもの2人がそこに居た。1人は上田城城主、真田幸村。もう1人は真田十勇士の1人、猿飛佐助。さて、上司と部下の間柄な2人だが、そんな2人が今何をやっているかと言えば、1人は縁側の廊下で正座、もう1人は前に立ち説教中である。ちなみに説教されているのが幸村で、説教しているのが佐助だ。え?普通、逆じゃね?って。知らん。この城ではこれが普通だ。
「佐助、今回、(幸村様が)どんな事やらかしたの?」
「あ、ちゃん。ちょっと、聞いてよ!もう旦那ってばさー」
あー、もうやだーと頭を押さえながら佐助が説明する。
「幸村様、ごめん、フォロ出来ないわ」
説明を聞いた私の言葉に、幸村が何故でござるかーと叫んだ。そして佐助にまた怒られた。
さーて、どうするかと私は頭を捻る。幸村は六文銭の首飾りをいつ如何なる時でも身に付けているのだが、どうやら外に出た際に置き忘れて来たらしい。で、その場所が問題だ。上田城ならさっさと取りに戻れば良いだけなのだが、よりによって置いて来たのが小田原城の堀の傍。何でそんな場所で外しちゃったのと佐助がオカン全開で聞けば、紐が切れたらしい。たかが六文銭と思うかもしれないが、死を恐れずに戦う真田家の不惜身命の心意気の象徴である。かなり、いや結構、下手したら命の次に大事な品である。
「責任を持って某が取りに行くでござる!」
「旦那はこれから親方様の所に行かなきゃいけないでしょー?」
「じゃあ、佐助・・・」
「俺はこれからサビーとか言う奴の城に行かなきゃいけないので無理」
「じゃ、じゃあ・・・」
チラッと幸村が私を見る。うわー面倒と言う顔をして見せれば、幸村の顔が懇願のものに変わっていた。
「幸村様。そんな顔しても駄目」
「」
「だから駄目」
「」
「だからそんな目で見ても・・・」
「。駄目でござるか・・・?」
「・・・・・・わかりましたよ。だからそんな顔しないで貰えます?」
ああ、もう面倒な事になったなーと天井を仰ぐ。犬派か猫派かと聞かれれば、即答で猫と答えられる私だが、柴犬の子犬だけは別格なのである。あの円らな瞳を彷彿させるような目で幸村にずっと見つめられ、かなり渋々ではあるが頷いてしまったが、既に後悔していた。
そんな訳でやって来ました。小田原城。地図を片手に中堀を捜索中です。そう、中堀。外堀なら置き忘れたのもわかるのに、よりによって幸村は警備の厳しい中堀に忘れやがった。本当、佐助じゃないけれど「どうやって!!」と言う疑問で一杯な私である。
「ここか?」
見た瞬間、いや、ここは流石にないだろうと言う気持ちで一杯になった。だって隠し通路だよ、ここ。中堀ならまだ小田原城に招かれた時に置き忘れたで済むけれど、こんな本格的な隠し通路、普通の人間には気付く筈がないし、有事のための物だから他国の人間に見せるどころか近付けさせるが無い筈なのに。あー、でも、武田は忍びの扱いがかなり良い方(給料的にも人権的にも)だから、城の中も彼らの知恵が随所隋所で採用されていて・・・・・・まぁ、簡単に言えば城の癖に忍者屋敷なんだよね。幸村ですら知らない仕掛けも結構あって、暇あれば見つけた仕掛けに挑んでいる幸村だから、偶然、ここを見つけた時に探索してもおかしくはないけれど、だからこそこんな所に六文銭置き忘れるなよ。侵入者が誰か一発でばれるじゃん。
「探すか」
隠し通路なだけあって、中に人が居ないのだけマシなのかもしれない。さっさと探して帰ろう。間違いなく幸村はここに置き忘れたと言っていたから、ここに無かったら私にはどうしようも無い。佐助と違って諜報なんて出来ないからね。
気合を入れて腕捲りをすると、私は隠し通路の端に膝をつくと、這いながら探し出す。草が密集していて、身を低くして分け入って探さならず、面倒だと本日何回目かの溜息を吐いたのだった。