生まれて初めて見た光景は、手にしたナイフを放り投げて獣のように狂い笑う男の姿だった。

えっと・・・神さま、ごめん、説明プリーズ。









人生の中で最も古い記憶は何ですか?

かつての私ならば、5歳の時に喘息で入院中に戦隊物の番組をテレビで見たと答えるだろう。しかし、今ならばこう答える。

『殺人未遂で捕まった男がナイフを捨てて笑っている光景』だと。

ぶっちゃけトラウマ物の光景です。良い年した男ですよ。自分の年の5分の1以下の年の子供をナイフで刺した訳です。まぁ、何故、そんな大人気ない事をしたのかと言えば、それなりに理由はあったのでしょう。満願の時を遂に迎えた男は喜び過ぎて手にしていたナイフを落として人間を止めたような笑い声で延々笑って居るのです。

間違い無くこの場で1番不幸なのは間違い無く刺された私ですね。刺されて痛いわ、出血で意識は朦朧とするわ、こんな光景見せられるわの3重苦。ちなみに2番目に不幸なのは私の背後にいたお陰でナイフの餌食にはならなかったものの、こんな光景を目の当たりにしてしまった双子の妹でしょう。

妹の泣き声、母の叫び、父の怒号。それらに交じり合うように私を刺した男が笑いながら、自らの犯行動機を得々と語り始めるところまでは覚えているのだけど、その後の記憶がまったく無い。まったく見覚えの無いベットの上で目を覚ますが、辺りには誰もいない。

一体、何がどうなっているのか。神さま、説明してよと他力本願な願いを飛ばせば、ひらひらと枕元に1枚の紙が舞い降りて来た。

『※※※※へ』

紙の文頭に私の名前が記されている。そう認識出来るのに、文字は潰れたまま何と書かれているか読めなかった。訳のわからない恐怖が気持ち悪さと化して背中に張り付く。それでも紙を読み続けたのはこれを読まなければならないと私が理解していたからだ。ますます気持ち悪い。

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読み終わった途端、頭を抱えた。理不尽さに泣きたかった。

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OK。少しは落ち着いた。

要約して言えば、私はどうやら生まれ変わったらしい。私の名前『※※※※』を思い出せないのは、今の私はもう『※※※※』では無いからだ。今の私の名前は『鈴木』と言うらしい。姉が1人と双子の妹がいるらしく、姉の名前は綾子。そして妹の名前は園子。鈴木園子と言えばお分かり頂けるだろうか。あの人気漫画のヒロインの親友役の女の子の名前である。

死んで輪廻の輪に入って初めて人は生まれ変わる。以前の私だった『※※※※』がいつ死んだのか、何故死んだのかわからない事自体が大問題な気がするのだが、既に私は覚えていないのに関わらず自らの死を受け入れていた。もしかすると魂に死んだ事実が刻まれているのかもしれない。故に私は生まれ変わった事を不思議なくらいすんなりと受け入れた。

受け入れられたのはここまでだったが。

今の『鈴木』には必要ないので『※※※※』の記憶を私に施さなかったのはこの紙の贈り主の仕業だろう。そこまでは良い。そこまでは良いのに、何故、前世で犯した罪のお陰で現世で罰を受けなければならないのか。しかもその罰が『名探偵並に事件に巻き込まれる』事と『双子の妹である鈴木園子が死ぬと一緒に死んでしまう呪いに掛かっている』事なのだろうか。前者はともかく後者のような呪いを掛けられるとは、私は一体前世でどんな悪行を積んで来たのだろうか。

前世の罪を拭うべく頑張って妹を助け給えというどこまでも上目線からの手紙の最後には、『鈴木園子は原作以上に狙われやすいので注意するように』と注意書きがデカデカと記されていた。

「・・・・・・とりあえず、寝るか」

やるべき事は山積みだが、まずは血を増やすところから始めなければならなかった。