こんばんは、鈴木です。
ただいま脅迫の真っ最中。脅迫者はワタクシ、鈴木。相手は初代怪盗キッドです。あはは。・・・うん、笑えないよね。私も出来ればやりたくなかった。
「こんばんは、怪盗キッド」
声音を作って吐き出す。イメージはパソコンの機械音声だ。私の第一声にキッドは少し黙った。
「誰だか知らないが、何の悪戯だね?」
「おいおい、悪戯かどうかアンタが1番知っているんじゃないのか?」
ついでに他人を装う為に口調を変えれば、何だか物凄い悪人風になった。こういう口調の人間って居るよね。何て言うか、こう・・・第1の殺人の時に犯人を目撃してしまって、それで犯人を脅迫して殺されちゃうタイプっぽい。キッドは殺しはやらないから大丈夫だろうと思うけれど、気を付かなきゃいけない。今のキッドには奥さんも子供もいるだろうから、いざとなれば私の口を塞ぎに掛かる可能性だって無いとは言えない。現に電話口の向こうのキッドは黙ったままだ。どうすべきか思考を張り巡らせているに違いない。
「正直、アンタが何者でも俺は構わない。アンタが今日盗んだ物を全部返してくれれば、俺はそれで良い」
正直、黒羽盗一氏を告発する気は私にはさらっさら無い。今後も怪盗キッドが存在しないと流石に不味いので。2代目怪盗キッドには園子も危機を救われていた筈。そのキッドが存在しないと園子の危機を救う人が居なくなりますから。自分勝手な理由なのはわかっているが、怪盗キッドがこの世から完全に消えるという事態は私にもかなり都合が悪い。
「申し訳ないが何の事かわからない?」
「わからない?」
「私は先程帰国したばかりだ。そんな私がどうやってキッドとして盗めると言うのだね?」
「何?」
嘘。いや、嘘にしては声が堂々としています。それじゃあ、本当?
今度はこちらが黙る番だった。意見を伺う為に一緒に受話器に耳を当てていたアンガスさんの顔を見れば、アンガスさんは受話器から耳を離すと電話ボックスに向かって息を吐いた。曇ったガラスにアンガスさんは指を這わせ、TRUEの文字がそこに浮かぶ。
「じゃあ、誰が?」
思わず声が漏れた。
「お嬢様!!」
突然名前を呼ばれ、私は思わず声の方向を見た。電話ボックスのガラス越しに立っていたのは私の世話係の女性。アンガスさんが咄嗟に受話器バーを下ろしてくれたようで、機械音と共にテレホンカードが出て来た。
「聞かれたかな?」
「間違いなく」
「不味いね」
「ああ、不味い」
アンガスさんと顔を見合わる。世話係の女性が荒々しく電話ボックスのドアを開けたのでこれ以上は会話出来なかったが、アンガスさんの目が「ま、なるようにしかなるまい」と言った感じの物に変っていたので、私は深々と肩を落とし溜息を吐くしかなかった。現状、これ以上の手を打っても悪化する可能性が高いからである。
結局、私は勝手に家を夜中に抜け出した事で家族からの説教は免れなかったが、説教を担当した母は思ったよりもあっさりと開放してくれた。私が預かった宝石の本来の持ち主(という事にした)であるアンガスさんが我が家に来た事が1番の理由だろう。そんな訳でアンガスさんはすんなりと我が家の滞在が認められ、私はしばらくの間、外出禁止令が出された。最もキッドに名前を聞かれた可能性が高いので引き篭もり上等だったのですが・・・。
「俺、黒羽快斗って言うんだ。よろしくな!」
どうしてこうなった?
ぽん、と軽快な音と共に一輪の薔薇の花が現れ、半ば現実逃避しつつも受け取る。
「わー、きれいなお花だねー。ありがとう」
年相応の言葉で返せば、視界の隅でアンガスさんが笑いを堪えているのが見えた。その後ろには黒羽盗一氏の姿も。うん、凄い予想外。まさか息子をダシにして堂々と来るとは思わなかった。
しばらくして園子が快斗少年を庭に誘った。「オメーといかねぇか?」と誘われたが、足が悪い事を理由に断る。うん、本当は凄く行きたかった。だって私の背後に居るのは世界を股に掛けて大活躍中の怪盗キッド様だ。初代についてはコミックで描かれる事が殆ど無かったので、そっちの情報は無いに等しい。しかも実力から考えても16、17歳時の快斗少年のキッドよりも間違い無く手強い。一応、魔眼で確認したけれど、アンガスさん級にレベル高いとか本当勘弁して欲しい。
園子は少し気不味そうな顔を一瞬だけして見せたが、すぐに嬉しそうな顔で快斗少年と共に庭へと掛けて行った。うん、アレだ。園子の面食いはこの時にはもう健在である。
お子様達に手を振って見送り、振り返る。早速話し掛けて来た黒羽氏に「おじちゃん、なぁに?」と甘ったれた声で返せば、黒羽氏は大変困ったような顔をして見せた。頭脳と精神年齢は大人だが、外見は6歳児。これは有効的に使わせて貰おうとしよう。いざとなったら泣けば良い。良い大人が息子と同じ年の娘に強い尋問など出来まい。
「おーい、。そいつにほぼばれてたから、俺、喋ったわ」
なん・・・だと・・・。
「・・・・・・そういう事は早く行って下さいよ、アンガスさん。無駄に子供の振りしちゃったじゃないですか。さっき悪人笑いになるの必死で堪えていたのに」
そう包み隠さず本音で喋れば、物凄い気不味そうに顔を強張らせる黒羽氏がそこに居た。うん、わかるよ。どう見ても私、貴方の息子と同年齢にしか見えないからね。