「犯人は――――貴方だ!」
殺人現場からこんにちわ。
あ、私、と申します。ついでにそこで初老の男性に指をびしっと突き付けているのが、新聞で最近騒がれている工藤新一と言う男です。最近、高校生探偵と新聞で騒がれていますが、実際はちょっと違います。中学校を一昨日卒業しました。高校の合格発表が明後日あります。
卒業式って合格発表の前にやるのですよね。逆だと落ちた子が卒業式が来ないからと近所の奥様から聞きました。情報収集の手段として奥様方の井戸端会議も馬鹿に出来ませんよ。まぁ、少々デマや誇張された話もありますが・・・・・・、それも仕方の無い事なのでしょう。早々耳寄りな情報を毎度奥様方も仕入れるのは大変でしょうし。
・・・少々話が逸れました。
中学生以上高校生未満探偵、工藤新一。面倒なのでもう高校生探偵で良いですね。その高校生探偵が何故こんな所でこんな事をしているかと言えば、・・・・・・首を突っ込んだからです。
今日、彼の両親が渡米したんですよ。作家と元女優のあの工藤夫妻が。お仕事の関係上、ロサンゼルスに住居を構えた方が楽らしく、ついでに息子も一人暮らし出来るくらいの年にはなったからと。・・・掃除洗濯は問題なく出来ますが、きゅうりをまともに切れない程の腕なんですけどね。
料理上手で世話好きな幼馴染がサポートしてくれるから問題ないのでしょうけれど。
その工藤夫妻の見送りに息子の工藤新一の他にも多数の友人が集まったのですよ。警視庁の警部さんとか。出版社の担当者さんとか。弁護士をしている元同級生とか探偵をしている元同級生とか。
いや〜、久々に毛利夫妻揃って見ましたよ。一人娘の蘭が両親に挟まれて嬉しそうにニコニコしています。お互い離れた位置に立つ両親を捕まえて、2人の片腕をがっちりホールド中です。流石にみんなの手前、揉める訳にもいかないので、なすがままになってます。
さて私はと言えば一緒に住む爺さまと一緒にいました。立派な白髭に対して頭頂部が寂しい爺さま。名前を阿笠博士と言います。職業は研究者。物凄い発明をしたかと思えば、みょーな発明をする人で、皆からは博士と呼ばれてる人です。私はと言えば彼の孫・・・・・・のようなものです。正確には私の母方の祖母の弟が爺さまなのですが。
爺さまの家は工藤家のお隣なので、工藤新一、毛利蘭とは幼馴染になります。まぁ、幼稚園時代から幼馴染やってる彼ら程、付き合いは長くありません。私が阿笠家に来たのは小学校の頃ですし。
色々と、そう色々と話をした後、工藤夫妻を乗せた飛行機が見えなくなるまで見送ったのですが、そこからは各自解散・・・の筈が、その流れを断ち切るかのように空港内に響いた悲鳴によって遮られました。現役警部、元刑事、そして高校生探偵が同時に悲鳴の先に走り出します。刑事の妻の心構えを持つ毛利夫人、と呼ぶと怒るので英理さんがその後に続き、その後を娘の蘭が。その後を出版社の担当者さんが追い駆けます。
私ですか?
爺さまの速度に合わせて走ってますよ。急いだってやれる事ありませんし。
私が着いた時には目暮警部による捜査が始まっていました。元刑事の毛利小五郎さんと探偵の新一が実況見分。目暮警部が関係者の聞き取りを行ってました。空港関係者が野次馬の対処をしていたのですが、どうやら私たちは野次馬に分類されなかったようで、捜査の真っ只中に立つ事になりました。
事件自体はそう難しいものではありませんでした。犯人が使ったトリックにはすぐに気づきましたし。
逆に新一は犯人に先に気が付いたようで、「オメーも気が付いたか?」と聞かれました。何で聞かれたかって?こういうの初めてじゃないのですよ。
情報の擦り合わせの結果、短時間で全ての謎が解け、最後は探偵として新一がその話術と真実を持って犯人を追い詰めます。謎を解く能力は高いのに、この最後の詰めの匙加減がまだまだなのですよ。
追い詰め過ぎて、犯人逆上してらぁ〜
まぁ、これも悲しい事に一度や二度じゃないのですよね。慣れっこって奴です。私が慣れる前に新一精進しろよ!という感じで一杯なのですが。こういう時に大抵真っ先に狙われるのも私なのですよ。見た目不健康そうなガリですからね。ひょろっひょろの。人質役にはぴったり!な見た目ですからね。見た目に騙されるなよ!と言いたいところですが、私の場合は見た目と実際が一致するのですよ。空手中学女子の部のチャンプの蘭とは違うのですよ。体自体がそう強くないので無理したら倒れますし。
その貧弱さを補うのが科学の力な訳でして。
ちゃららったら〜。特殊警棒〜。
電源ボタンをオンにして向かって来た初老の男にアタック。警棒から流れる電流に触れて、体を一時的に麻痺。手にした凶器はからりと床に落ち、本人も膝からがっくりと床へ倒れこみ、そこを警部が押さえ込みます。電流の強度を弱めにしたので、犯人はすぐに復活、そのまま御用。犯人逮捕でめでたしめでたしで終わるけれど、収まりがつかないのが私の気持ちな訳で。
うん、もう事件はお腹一杯。
新一の2人目の幼馴染というポジションは事件遭遇率が高いのですよ。と、いうか新一がホイホイ持って来る始末。新一のお陰で救われた人が一杯居るのは知ってますよ。でも、正直、幼馴染を巻き込むなと言いたいのです。既に言ってますが、「悪い悪い」の言葉で終わりですよ!しかも懲りないのですよ。私の言葉、まったく聞いてないのですよ!
1人目の幼馴染の蘭が偉大過ぎます。こんな状況なのに「ちょっと、新一!もう、しょうがないんだから・・・」で済ましてしまうのですよ!どんだけ新一ラブなんですか!もう君たち早くくっついちゃいなよ!ですよ。
私は蘭と違ってそこまで新一に甘くなれません。むしろ毎回命の危機です。しかも今までそれとなーく新一のストッパーになっていた優作さんが渡米してしまいました。つまり新一は事件に首を突っ込み放題!そして私は巻き込まれ放題!・・・な未来は嫌なので足掻きました。
明後日、国公立高校の合格発表日なのですが、新一や蘭は自宅から通える帝丹高校を受験しましたが、私は電車で数駅先にある江古田高校を受験しました。徹底的に隠匿したので私の江古田受験は新一も知りません。
・・・ま、明後日ばれますけど。
学校生活というのは一日の大半を占めます。学校さえ変えれば私の巻き込まれ率もだいぶ減る筈です。流石に自宅が隣同士なので、ある程度の接点は仕方が無いと思いましょう。蘭と付き合えばその時間も減るでしょうし。
あと、もう少しの我慢だと思って耐えますか。