年が明け。ようやくテレビが正月特番で無くなった頃。


Jmのカウンターで宗春、国吉、畑で飲んでいると、やって来たが店内に他の客が居ない事を確認すると、仕入れたばかりの情報を齎した。


「武装戦線の下っ端が情報収集してるけど、どうする?」


が言うにはそいつは鬼塚地域では無いが、安生市に親戚がいて、そこに遊びに来ているらしい。荷物や周囲の話から考えて精々数日程度の滞在で、得られる情報もたかが知れているので、今は観察程度に留めているらしい。


「その程度なら問題ねぇだろう。放っておけ」
「了解。新しく増援増えた時にはまた教えるね」


はそう言うと店の奥に消えた。しばらくしてエプロン姿で出て来て、小鉢の載ったトレイを持って現れる。今日のオマケと言ってテーブルに小鉢を置いて行くに、宗春達は口々に礼を言った。


「どう?双頭龍は?」
「思った以上に面白くねぇな」
「あそこも時間の問題だろう。頭の美川が今、県外に居るからな。戻り次第、こうだ」


畑の手にあったビール缶が握り潰される。真ん中から折れるように潰れたビール缶と同じ運命を辿る美川に、はまったく同情しなかった。


双頭龍の構成員は80人。美川が頭に就任して以降、中学生もチーム入りさせていたのだが、人数が思うように増えない事に焦りを覚えたのか、その勧誘は日に日に強引さを増して行った。遂には傘下に入るか、それともここでボコられるか。そんな勧誘を受け、怯えながら双頭龍入りした中学生のお陰で、一時は150人に人数が膨れ上がった。


鬼塚地区に前川に憧れる1人の中学生がいた。幼馴染達も居たが、基本的に1人で居る事を好み、中学を卒業したら毒蛾入りしようと思っていた矢先、双頭龍のメンバー5人に囲まれたのである。ボコられる事を選んだ少年は、見せしめの為に手酷くやられた。少年はの中学時代からの友人の弟だった。


この件で激怒したの行動は早かった。宗春と国吉に即座に連絡を取り、状況を説明。の怒りを聞き届けた2人は龍狩りを決行。その恐ろしさに嫌々入れられた中学生達は完全に戦意を喪失。双頭龍がくたばるまで目立った動きをするなと忠告され、そそくさと家に帰った。そしてメンバーは幹部、平、関係なく、問答無用で狩られた。大半が自宅療養。酷い人間は病院送りにされた。目的の首代、双頭龍の頭、美川は運が良いのか悪いのか、所用で県外におり、狩られずに済んだものの街に戻れずに居た。


「問題はいつ美川が戻って来るかだよねー」
「崩壊寸前のチームだぜ?戻って来るのか?」
「戻りたいけど、戻りたくないって所かな。どうする?美川を戻らせる?」
「出来るのか?」
「出来るには出来るけど、ちょっと面倒臭いと思うかも」
「何をやる気だ」
「何もしない」
「あ?」
「一旦、龍狩りを中止する。メンバーが復帰していけば、美川も戦力が回復したからこれで毒蛾に勝てる。そう思って安生に帰って来るわよ。折角ここまで追い詰めたのに、相手の戦力回復を待つなんて馬鹿馬鹿しい話なんだけどね」


どうする?


そう3人に問う。宗春も、国吉も、そして畑も。その問いに笑い返した。


「手間だが、あいつにきっちりケジメをつけさせなきゃならねぇからな」
「良いぜ、やろうぜ。どうせ、武装さんもまだ来ねぇだろうしよ。まぁ、武装さんが来たら邪魔だからその時はさっさと双頭龍潰してしまえば良いだろう?」
「決まりだな」


笑い合う宗春達の前にが封の切られていないビールを一本ずつ出す。せめてもの礼だった。


「ありがたく頂くぜ」
「おぅ」
「じゃ、今後の方針も決まったって事で」


乾杯。

Jmに年若い男の声が響いた。