達の試験が終わる前に、双頭龍との抗争は毒蛾の圧倒的勝利で幕を下ろした。


その予想以上の早さに、敦士とひかり、情報担当の幼馴染2人が早過ぎると苦言を呈したが、武装が乗り込む前にカタをつけなきゃ駄目だろうがと畑が呆れた口調で言い返すという、何とも珍しい光景があった。後でその話を聞いたは自分がその場に居なかった事を心底後悔したと言う。最もが試験期間中でなければ、苦言を呈す役目はが行い、それに反論するのは国吉と決まっているので、どの道見られない話である。なお、畑が言い返したのは、ひかりが他の幼馴染達ほど国吉に慣れていない為、国吉が言い返すと涙目になるからである。情報担当には優しい国吉だが、国吉の本気モードには対抗できるのでだけは扱いが変わる。それに対してから異議申し立て中の国吉だった。




戸亜留市に畑と忍が出向いた日の夜。は自宅で中華鍋を振るっていた。ダイニングテーブルには宗春と好誠が着いていて、宗春が持ち込んだビールで既に2人は飲んでいた。


安生に武装の幹部クラスの人間が来た事を、は宗春と国吉に告げた。その際、この話を好誠にするかどうか、は宗春達に相談した。武田好誠は引退した身とは言え、武装のOBである。好誠がOBだと知るのは、宗春、国吉の他に、後はJm常連の畑と店長くらいだ。好誠の事を知る面々は別に毒蛾と武装がぶつかっても、好誠に思う所は無い。ただ好誠と今の武装はどう思うのかわからない。好誠は複雑な気持ちを抱くかもしれないし、今の武装も毒蛾と好誠が親しいと知れば、やり辛いと思うかもしれない。牙の出せない武装など興味の無い宗春達である。相談の結果、宗春が立候補したので任せる事にした。その結果が武田好誠 IN 宅である。


「あー、だって俺、好誠さんと飲みたいし」
「あんた、良い性格してるわよね」
「仕事とプライベートは分けるんだ、俺」
「今はどっちなの?」
「プライベート」
「私のプライベートはどこにいった」
「あっち?」


との漫才のような掛け合いに、好誠は仲が良いなと笑った。その目に嫉妬めいた色は見えず、宗春は少しだけ残念に思った。


好誠がを気に入ってくれているのは、誰の目から見ても明らかだった。愛と言うには熱が足りない。恋にもまだなっていない状態だろう。一方のも好誠の事は気に入っていた。安生の魔王をやっているお陰で、すっかり家族や幼馴染以外の人間関係を打算で考えるようになってしまっただが、余計なしがらみを持たない好誠と一緒にいるのは楽しいようだ。しかし、こちらも好誠に向ける目に熱も色も無い。精々仲の良いお兄さんが良い所だろう。


宗春は好誠に全て話した。双頭龍とやり合い、抗争に勝った事。これから武装との情報戦が加熱し、毒蛾が戸亜留市に刺客を送り込むように、武装も安生に刺客を送り込むだろうと。宗春達を好誠が快く思ってくれている事。Jmとを気に入ってくれている事を踏まえて、宗春は今後起こりうる事を全て好誠に話した。俺の口から情報が漏れる恐れがあると思わないのかなどと、好誠も今更そんな言葉は口にはしない。


ただ一言、好誠はわかったと告げて宗春の前から立ち去ろうとした。それを慌てて引き止めたのが宗春である。珍しい事には宗春に、武田好誠について、武装5代目頭である事と5代目を旗揚げした時に3人だった事しか話していない。後は自分の目で確かめろという事を宗春は悟り、今まで武田好誠という男を見て来た。見て来たからこそわかった。好誠はもうJmにも毒蛾にもの前にも現れないだろう、と。迷惑を掛けるくらいならいなくなる。恐ろしい程、好誠はその辺、潔いのだ。宗春としては、自分の事情に好誠を巻き込んでしまったとしか思えなかったので、正直、この事態をどうしようかと考えた。武装との抗争中、Jmに宗春達が行かないという案もあったが、それこそ今更である。Jmが毒蛾のたまり場と言うのは調べればすぐにわかるだろう。毒蛾のメンバーが顔を出さなくなったという情報を掴んだ所で、武装のメンバーが来ないとは限らない。むしろ真偽の確認に来る事請け合いだ。好誠がJmに行かなくなっても、自分達と縁の切れない方法。


考えた末、宗春は言った。


「好誠さん、飯食いましょう。がバイト無い日に一緒に」


思いつきな上、に無許可という勢い任せな申し出だった。当然、好誠も断るが、宗春も負けてはいなかった。


「ここで好誠さんと縁が切れるのは嫌です!。俺、を出汁にしてでも、この縁を死守します!」


本音駄々漏れな発言を吐きながら、右手で好誠の腕を掴んで宗春はの家まで引っ張った。そのあまりに酷い本音に好誠は最早苦笑いを浮かべるしかなかった。とも宗春とも縁を切りたくないという思いもあり、好誠はからも言われてその言葉に甘えるという選択を選んだ。


こうして毒蛾と武装の抗争中に関わらず、魔王の家で毒蛾の現頭と武装の元頭が魔王と食事会という、言葉にするとどこまでも混沌とした図式が出来上がったのである。