いつもの見慣れた黄色と緑のユニフォーム姿では無かったが、耳に光る5色のピアスをつけているのは自分の後輩くらいなもので。その後姿に白石は声を掛けるが、まったくの無反応。繰り返しその名を呼ぶものの反応は無く、呼ぶ事数回目にして白石は自分が無視されている事に気づいた。元より1つ年下なこの後輩は気難しく扱い難いところがある。先輩を先輩と思っていないと謙也は言うが、それは財前が財前なりに謙也に懐いているだけであり、それなりの礼儀は弁えている。と、なると、今の態度から察するに財前がご立腹なのは、自分に非があるからなのだろう。財前の怒りのツボはわからんわーと嘆きながらも、ここ最近の己を省みるも思う節は無い。こうなったらここは1つ財前マスターの異名を持つ後輩の力を借りようとその姿を探せば、視界の端に謙也と喋る後輩を見つけた。


、ちょっとええか?」
「白石」


今まで話していた内容が自分絡みだったのか、白石がやって来た途端、謙也は気不味そうな顔付きになった。なんやねんと普段ならばつっこむところだが、今は財前の問題が先だ。視線を若干下向きに落とせば後輩であると目が合う。にこり、とが笑った。ああ、いつも通りの人当たりの良いだと思った。


「すいません、どちら様ですか?」


ふんわりと柔らかい笑みを浮かべるも、口にしたのは何とも強烈な一言だった。普段が温厚な分、余計に先程の言葉が突き刺さる。


「え?何、言っとんねん、自分」


慌てての肩に縋るが、は相変わらずにこにこと笑っているだけだった。え?も財前もどうしたん?と疑問を口にするものの、返答は返って来ない。代わりに後ろから思いっきり蹴られた。


「そこの知らん人、なに、人の相方にいつまでも抱き付いているんすか?いい加減、離れてくれません?」


ゲシゲシと財前から容赦無い蹴りが加えられる。さっさと放せばいいものを状況がさっぱり飲み込めず、にしがみ付いたままの白石は、見るに見かねた謙也に引き剥がされた。


「コイツは俺が見とくから、お前らはもう行け」
「言われなくともそうしますわ」
「それじゃあ、謙也さん失礼します」
「ほな、謙也さん、また」


ここぞとばかりに謙也さんと強調して呼んだと、それに乗った財前。白石の事は知らない人扱いなのに、謙也の事は相変わらず謙也さんと呼ぶ。そんな後輩2人の後姿を見る白石の目は潤んでいた。


「はぁー、財前よりもの方がこういう時は性質が悪いっちゅー話やな」


呆れを含んだ謙也の言葉に目で続きを促す。


「あの2人から伝言や。『何、立海の次期部長庇って怪我してんねん!挙句、天使化とか訳わからんわ。このボケ、ちょっとは反省しろや。その腕の怪我が治るまで口利かんから、話掛けんなや』・・・以上や」
「それ絶対、8割方、財前の言葉やろ」
「知らん。俺も伝えて下さいと言われただけや。ま、さっさとその怪我治して話しかけたら良いんとちゃうか?」
「お、俺のお花ちゃんが口利いてくれへんとかっ!」
「お花ちゃんって誰やねん!って、の事か!きっしょ!流石にその呼び名は無いわ!!」


ぎゃーぎゃー騒ぐ2人と遠巻きに眺める人々。その後ろでこっそりと状況を眺めていた2人は反省の色無しと判断し、結局、白石の怪我が完治するまで口を利かない、もしくは知らない人扱いが徹底して行われた。





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実はヒロインの方が1度決めたらえげつい事だって笑顔でやっちゃうんだぜ☆という話。